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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
十章 闇
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至宝を手に


 声はザルードの声と全く同じ物へと変化していた。

 だが、本人すら口にしていないその言葉。

 おそらく、それはザルードに課せられていた本当の使命なのだろう。

 あの黒い泥人形は、ザルードとの接触によってその姿を読み取ると同時に、その心をも読み取ったのだ。

 そして、口を衝いて出たのは、本人が一番強く持っていただろう意志。

 そんな僕の予想は、本人の言葉に依って肯定される。

「わ、私の心までも…読み…取ったのか」

 苦しそうに、そう口にしたザルードは地面から上体だけを起こし、その身体を来夢に支えられている。

 来夢の横の星河はそのザルードの背中、つまり泥人形に触れられた部分に向けて両手をかざしていて、その周囲は淡く緑色に光を放っている。

『至宝クレセントムーン…我が手に……』

 と、再び泥人形の声が響いたかと思うと、今までとは比べ物にならない早さでその身体が動く。

 その泥人形の進む先にはザルードと星河、来夢が居る。

「時雨!!」

 紫雲さんの咄嗟の叫びに、

「分かってる!」

 時雨が叫び返しながら、その進路上に立ち塞がる。

 泥人形はクレセントムーンの力の発現を目にし、言葉通りそれを狙ったのだ。

 狙いは三つの至宝、それが分かってはいたが、時雨は既にイーストステアーズの力を発動していた。

 でなければ、今やザルードを同じ身体能力を得たであろう泥人形に対抗する事は出来ない。

 両手にはそれぞれ、予知夢の中で見たのと同じ炎の剣が握られていた。それは、泥人形の身体に直接触れる訳にはいかないため、その攻撃をさばく為の手段として作り出したのだろう。

 猛スピードで突撃して来た泥人形へと二本の剣を合わせて振り抜き、その進路を三人から逸らす。

「イル・デ・ション!」

 時雨の声と共に地面に赤い紋様が現れたかと思うと、泥人形が爆発に巻き込まれて後方へと吹き飛ぶ。

 泥人形と星河達との距離は離れたが、そこで時雨の攻撃は止まらない。地を蹴り、泥人形が飛んで行ったその先へと追撃を掛ける。

「イル・デ・ラース!」

 空中に現れる赤い紋様を突き抜け、時雨は炎の塊となる。

 そのまま、時雨は泥人形へと体当たりを仕掛けるという、夢の中で見たザルードに対する攻撃方法が再び目の前で繰り出される。

 夢の中では鎧を突き破っていた攻撃だったが…と、そこで気が付く。

 予知夢でのザルードは、この攻撃の後に鎧を脱いでいたはずだ。それが、今目の前に居るザルードは無傷の鎧を着ているのだという事に。

 予知夢と現実で起こった事がずれている…?

 一瞬そんな考えも頭を過ったが、それは無いとすぐに切って捨てる。

 予知夢で見た事は必ずそのまま起こるはずだ。

 という事は、時雨との対決が終わった後に、ザルードは新たにきれいな鎧を着て此処までやって来た。それが答えだ。

 此処まで駆け付ける間に新しい鎧を何処かから調達して来るなんて時間は無かったはずなので、あの鎧はおそらく、能力によって作られたアルドの鎧。時雨が手にしている炎の剣と似た様なものだという事だ。

 と、頭の中に湧いたそんな疑問を自ら解決している間に、泥人形と時雨は僕達の居る場所から五十メートル程離れた所で動きを止めていた。

 公園の緑一色だった芝生の上には、泥人形が地面の上を擦って行ったのであろう、土が顕わになった茶色い道が出来ている。

 鎧を砕く程の衝撃を受けた泥人形は、同じ様に鎧をかたどったその身体にひびが入っているのだろうか?

 そんな事を考えながら眺めていると、時雨から数メートル離れた地点でゆっくりと泥人形が立ち上がるのが目に入った。


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