集う仲間達
十章 闇
「よーう、お待たせさん」
夢で見た通り、そこには星河、修司さん、紫雲さん、美来さん、来夢の五人がそろっていた。
僕も父さんに続いて口を開く。
「皆、すみません。俺のミスのせいでこんな事態に」
その謝罪の言葉に、最初に反応したのは紫雲さんだった。
「何言ってんだ。お前は自分の仕事はきちんとこなしただろう。結界は無事に張られたんだ。コイツは予想外のアクシデントって奴だぜ」
「そうそう、一輝は悪くないよ。私がもっと上手く結界を張っていたら――」
続く星河の言葉が終わる前に、美来さんが口を挟む。
「誰も悪い人なんて居ないわ。だから、たらればの話は止めなさい。私達が考えなきゃならないのは、今この目の前に居る何かをどうするのかって事よ」
「ああ、美来ちゃんの言う通りだぞ」
父さんのその言葉に、ぎろりという音が聞こえて来るかと思う程の鋭い視線が飛んで来る。
「あ、ああ。美来さんの言う通りだぞ」
今更遅いと思うが、言い直す父さん。
けれども、今のはふざけて言ったのか、それとも子供の居ない所では普段はそう呼んでいるのか…その判断は難しくなった。
「未だに動きは無いですね…」
そんな親達のやり取りには我関せずといった感じで、来夢がそう口にする。
確かに、目の前に居る真っ黒な泥人形は夢の中で見たままの姿でそこに立っていた。
表面の形が動き続けているので、正確にはそのままとは言えないが、表面以外は何も変わらずに、その場に直立不動の体勢だ。
その様子を見ていると、何か正解の姿があって、その姿を試行錯誤しながら探している様に思えて来る。
その正解というのが、誰かを模した姿なのか、それとも泥人形オリジナルの姿なのかは分からないが。
そんな風に、皆が泥人形を眺めていると、最後の待ち人がこの場に到着する。
空を飛んで来たかの様に、否、実際飛んで来たのかもしれないが、ふわりと地面に二人の人物が着地した。
一人目は重厚な西洋鎧を着込んでいる、銀髪の騎士。鎧の下からのぞく服の部分は所々焼け焦げている様に見えるが、まだまだ闘志をその顔にはにじませていて、厳しい表情で僕らの事を睨みつける。
彼が僕達の集まっている場所から十メートル程離れた位置に着地したのに対して、二人目の人物は僕のすぐ隣に着地した。
先に降り立ったザルードと戦っていたはずの時雨だ。
学校が休みだというのに普段通りの近明高校の制服姿。右腕の部分が大きく破れていたり、赤黒い染みが出来ていたりと全体的にボロボロになっている様に見えるが、その下に見える肌には傷の跡は全く残っていなかった。
それを確認してから改めてザルードを見てみると、そちらも足に負ったはずの傷の跡はきれいさっぱり消え去っていた。
おそらく、ここに来るまでの間にアルドを使って、自己治癒能力を高めて回復して来たのであろう。
という事は、夢で見たあの場面以降は二人は争う事無く、一目散にここに向かって来たという事か。
「あらら、やっぱり俺が最後って訳ね。てか、アレは何だ? 結界は無事に張られたんじゃなかったのかよ?」
時雨は泥人形を視界に収め、顔をしかめる。
「結界は無事張られたわ」
応えたのは来夢。
僕はそれに続いて口を開く。
「ちょっと予定外の事態になっちゃってね。あいつも片付けなきゃいけなくなったんだ」
「やれやれ、後は楽な仕事だけだと思ったんだがなー」
時雨の軽口に、
「時雨、少しは緊張感を持ちなさい」
美来さんの鋭い言葉が飛ぶ。
「分かってるよ、んな事は」
口では軽く言っているが、時雨も分かっているはずだ。あの泥人形が内包している異常な量のアルドの事を。
それが分かっていて、アレを楽観視出来る者は居ないだろう。
そこで、意外な声が聞こえてきた。
「あれは…あれは一体――何なんだ?」
それは、この場では初めて発せられた声。けれども、僕には聞き覚えのある声だ。
そう、アンビシュンの騎士、ザルード=ガルティアの驚愕と恐怖の入り混じった声だった。




