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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
九章 結界
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悪夢に終わりを


「ん、くう、はあ~~」

 僕は大きく欠伸をして目を覚ます。

「よう、やっと目を覚ましたか」

 聞こえてきた父さんの声はすぐ下からだ。

 どうやら僕は、父さんの背中に背負われて移動している最中の様だ。

「あ、ごめん父さん、急に力が抜けてしまって…。も、もう大丈夫だから下ろしてくれ」

 この歳になって父親に背負われているという現実に耐えられなくなり、僕は慌ててその背から滑り降りる。

「おいおい、気にする必要は無いぞ。全身から力が抜けるったって、それだけの事をお前はやってくれたんだ。まだしばらくは休んでても良いんだぞ?」

 足を止め、振り返った父さんはそう言って僕の頭をポンポンと軽く叩く様にしてなでてくる。

「っずかしいから止めろって言ってんだよ!」

 そんな子供の心知らずの親の行動に耐えられず、少し乱暴にその手を払いのけるとすたすたと今まで向かっていたであろう方向へと歩き出す。

「ははっ、そうか。そうだよな。悪かったな」

 そんな僕の行動にも父さんは機嫌を損ねた様子は全く見せずに、僕に続いて歩き出す。

 にしても、今僕達はどの辺りに居るのだろうか。

 元々の作戦通り、星河達のいる公園へと向かっている最中だと思うが…聖風学園から街の中心の公園への道など全く知らないので、見覚えなど有る訳が無い。

 だが、急がなくてはいけない。何故なら、

「今、予知夢を見たんだ」

 僕は横へと並んだ父さんへと話し掛ける。

「何?」

 流石は父さん。予知夢については良く分かっているだけあって、その言葉だけで僕が言わんとしている事に大体察しが付いた様だ。

 問い返すその声色は鋭い。

「結界を張るのは確かに成功した。そう、成功したはずなんだ。でも、見落としてるその先があったみたいだ」

「その先、か」

 呟く父さんの声は重い。

 僕は見たままをそのまま伝える事も出来たが、あえて自分の見解を交えて予知夢の内容を伝える。

「おそらく、結界が途切れたその一瞬。一瞬の間に、シュトゥルーにいるアンビシュンの奴らは何かをこちらに送り込んだんだ。それが何なのかは分からないが…あれを何とかしなければ、俺達の勝利とは言えないだろうな」

「逆に言えば、結界は完全に張られていて、後はそいつさえ何とかすれば良いって事だろ?」

 父さんの返答に、僕は言葉を詰まらせる。

 父さんはあえて、そう言い直したのだろう。後やるべき事はそれだけだと。

 けれども、僕にはそうは思えなかった。あの、大量のアルドが渦巻く漆黒の化け物を目にしている僕には。

 今まではただの前座。これから待っている事が、本番だとしか思えない。

 そんな事を考えて黙っていると、父さんが再び口を開いた。

「なーに、そんな難しく考えるな。こっちはお前一人じゃない。今頃全員が星河ちゃん達の居るゲート中心部に向かっているはずだ。皆の力を…クラウドルインズとクレセントムーン、イーストステアーズ、それを今まで繋いで来た皆の力を合わせれば、成せない事は無い。そうだろ、一輝?」

 そうだ。御先祖様が予知し、望みを託した今の僕達が諦めてどうするのか。

 僕達なら出来る。

 夢で見たあの化け物を倒すだけじゃない。アンビシュンそのものを打倒する――それが僕達の目的なのだから。

「はは、そうだな。何を弱気になってるんだか。皆が居る。それに、まだまだクラウドルインズの力が…使える」

 未来を予知し、絶対の勝利をつかみ取る。

 さっきまでやっていた事となんら変わる事は無い。僕がやるのはただそれだけだ。

「んじゃま、そう意志も固まった所で、ちょいと歩くペースを上げないか? お前をおぶって歩いてたせいで、ちょっと他より遅れてるような気がするんだよなー」

 僕の内心の変化をしっかり読み取っているのか、絶妙なタイミングでそう茶化してくる父さん。

「ははっ、そりゃすまなかったよ。分かった分かった。急げば良いんだろ!」

 僕はそう憎まれ口を叩きつつも、内心では言われた通り、早く到着せねばと先を急いでいた。




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