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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
九章 結界
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万策尽きて

「ハァー…ハァー…ハァー…」

 遂に膝を付き、僕は地面へとしゃがみ込んでしまっていた。

 もう何度、繰り返しただろう。十回はいって無いだろうが、五回以上はやっているはずだ。

 刀を構えては、闇にあふれる未来に精神をすり減らされ、また改めて刀を構え直す。

 そんな事を繰り返している内に、僕はすっかり疲れ果ててしまっていた。

 昨日も実感したが、体を動かす以上に、このアルドを使うという行動は体力を消耗する。

 後何度繰り返せば、望む未来が得られるのか。

 本当に、無事に結界を張り直せる未来が存在するのか。

「一輝、少し休むか?」

 と、肩に手が置かれる。

 振り返ると、同じ様に腰を落として、心配そうに僕の事を見ている父さんの顔が目に入ってきた。

「だい、じょうぶ。まだやれるさ。それに、休んだ所で…アルドはすぐには回復しないんだろう?」

 昨日言われた言葉を言い返してやる。

「それはそうだが…気持ちを落ち着けるって意味もある。それに、続けてやっても光が見えないなら、時間を空けてみるのも一つの方法だろう?」

 一理ある。

 連続で未来を見ても、ほんの少し時間をずらした位では目的の未来は存在しない。ならば、少し時間を置くことで、望む未来が存在する時間となるかもしれない。

「わーったよ。少し休む事にする」

 そう言って、僕は背中から地面へとごろんと横になる。そして、続ける。

「でも、そんなに時間は無いはずだ」

 予知夢で見た、時雨とザルードの攻防。あの時間の間に、結界は張られるはずなのだから。

 結界を破壊しようと試み始めてからはいくつもの未来を見ているので、時間の感覚がおかしくなっているが、始めてからどの位時間が経っているのだろうか。

 いや、時間が分かったとしても、夢の中の戦闘の時間がどの位かかっていたのかも良く分からない。

 休憩して、タイミングを見て再開する。その時が、時雨の方でも決着が付く時に違いない。何故なら、結界が張られる事はもう既に決定事項なのだから。

 そんな事を考えながら、僕は焦る気持ちを落ち着かせる。

 そう、落ち付いてやれば、必ず成功するはずなのだから、と。


 そうして、五分程経っただろうか。

「そろそろ、かな」

 僕は立ち上がる。

「落ち付いたか?」

 すぐ隣に腰を下ろしていた父さんが、見上げながらそう声を掛けてきた。

「ああ。今度こそ、いけるさ」

「そうか」

 父さんはそれだけ言うと、立ち上がって少し後ろへと下がる。

 それを確認し、僕は再び、寝転がっている間も手に握っていたクラウドルインズへとアルドを込めた。

 一瞬にして輝く刃が現れ、光る刀が形作られる。

「さーってと。一丁やってやりますか」

 深く考えずに、僕はただ、両手で握る刀を振り上げる。

 そして、願いを込める。輝く、未来を――


 闇、闇、闇。

 いくつもの未来が重なる。だがまだだ。まだこんなものじゃない。

 もっと他にも、可能性のある未来があるはずだ。

 そのままの格好で、重なる未来を見て、現実へと戻り、再び重なる未来を見て――光が見えた。

 輝く光の塔が上空へと伸びて行く――予知夢の中で見たのと、全く同じ情景を。

「これだ!!」

 僕は叫んだ。全身全アルドを込めて。

 同時に、一気に両手を振り抜く。

 刀は何の抵抗も無く、右から左へと巨木の幹を斜めに通り抜けた。

 確かに、僕は木を両断した。だが、本当に断つ必要があったのは形の有るその巨木ではない。その木に宿る、クレセントムーンのアルド。それによって作られていた結界の起点の一つだ。

 そう、だから手応えは確かにあった。細い、糸の様な物がプツンと切れる感覚が。



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