最重要地点
「分かったけど…ここは二人になるんだな」
僕は単純に思った事を口にする。
「ああ、ここが今回の作戦の最重要ポイントとなるからな」
「最重要ポイント?」
父さんの言葉に、僕は聞き返さずには居られなかった。
自分がそんな事を任されるとは思ってもみなかったからだ。
「そりゃあそうだろ。話した通り、結界を解いてすぐに張り直さなくてはならない。となれば重要なのはここだ」
「そんな事は分かっているけれども…」
続く言葉が見つからない。
自分が何を言いたいのか…。
すると、不意に手が握られる。
驚いて、手元へと視線を向けると、横に居る来夢から手が伸びていた。
「かずくん、大丈夫。かずくんならちゃんと出来るから。昨日一緒に修行した私が保障するよ」
来夢の言葉を聞き、僕は理解する。
自分が緊張していたのだということを。だからこそ、不安で父さんに聞き返さずには居られなかったことを。
「何だ、一輝、柄にもなく緊張していたのか」
父さんにストレートに指摘され、これには少しイラッとする。が、お陰でちょっと気が紛れる。
「い、良いだろ。何てったって――」
この世界の未来がかかっているんだから。
その言葉は口に出さずに飲み込んだ。
何故なら、父さんがニヤニヤとした笑みを向けてきたからだ。
「まあそう気負い過ぎるな。とりあえず、説明を続けさせてもらうぞ。あんまり余計なこと話してると、また怒られるからな」
父さんのその言葉に、
「誰にです?」
間髪入れずに美来さんが問いかける。
問われた本人じゃないのに、正直肝が冷える程の鋭い声だ。
「い、いや、まあそれは…じょ、冗談…ですよ?」
その父さんの狼狽え振りに、自然と頬が緩む。
もしかして、この一連の流れが僕の気を緩めさせるための芝居なんじゃないかと思う程だったが、
「そう。じゃあ話、早く進めてちょうだい」
やっぱりそんな事はなさそうだ。
「ええっと、それでだ。最後の起点、今ある起点の解除を一輝にやってもらう。理由は、クラウドルインズの力によって最良の未来を引き込む為だ」
予想通りの言葉。でなければ、何のために修行したのか。
「最良の未来、というのは?」
僕が聞きたかった事を、先に時雨が問いかけた。
「何をもって最良とするかは見える未来によって変わってくるが…少なくとも、一瞬解かれた結界からアンビシュンが出て来る事の無い未来だろうな」
時雨は納得したのか、それ以上何も言わない。
見てみなければ分からない、か。
本当にそれを僕は見つけ出せるのだろうか…。
いや、見つけ出さなくてはいけない。
修行に付き合ってくれた来夢や父さんのためにも、僕が自分自身を信じないでどうするのか。
「それ以上何もなければ話を進めるぞ」
父さんはそう言って一度周りを見回すと、改めて話し出す。
「その起点での俺の役割だが、一輝のサポートになる。具体的に言うと、結界の消滅と同時にすぐに新しい起点を作成する役目だ。そうするのは、起点を壊す事だけに一輝が集中出来るようにだ。勿論、俺がすぐ動けるかどうかも含めて一輝には未来を見てもらわなければならなくなるが、一人でやるよりも可能性の未来はずっと多くなる」
最良の未来、そのために可能性を増やすということか。
父さんの役割は分かった。
僕は僕の役割を果たす。そう、固く決意する。
「って事で、残るは修司の役目なんだが、修司には星河ちゃんと一緒に結界の中心点に行って貰う」
今まで全く触れられずに、もしかしたら忘れられているんじゃないかと少し冷や冷やしていたのだろうか。
その説明を聞いて、やっと自分の番が来た、とはっきりと分かる程ほっとした顔を修司さんはしていた。




