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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
九章 結界
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四つの起点


 ここに来るまでに少し会話する時間があったが、星河は昨日の修行でクレセントムーンの力を引き出せる様になったと言っていた。

 簡単に聞いた話をまとめると、僕と同じ様なアルドを感知する特訓から始まり、怪我の治療の仕方や結界の張り方など、僕とは違って様々な能力の使い方を習ったという事だ。

 今日の計画では、星河がそのクレセントムーンの力で結界を張る事になっている。

「星河ちゃんが中心点で結界を発動するためには、その前段階として四つの起点を作らなくてはいけない。本来ならば、星河ちゃんが直接四か所を回って準備をするのが確実なんだが、今回はその時間が無い。という事で、星河ちゃんには別の方法の準備をして来て貰ってある」

 父さんがそう言うと、星河は持って来ていたハンドバックを開け、中から石ころを取り出して机の上に置いた。

 ころころと音を立てて机の上に置かれたのは、大体二センチ程の大きさで、形も色もバラバラの四つの石だった。

「ただの石…じゃないよな?」

 ぱっと見はその辺にある石ころにしか見えない。その当然の質問は、時雨が星河に向けたもの。

 だが、答えたのは父さんだった。

「元々はその辺にあった石だがな。今は、その石にクレセントムーンの力が込められている。その石を置きアルドを注ぎ込めば、立派な結界の起点の出来上がり、といった具合だ」

 そう言いながら父さんは四つの石を手に取ると、一つ一つ別々に置いていく。

 一つは時雨父の前。

 一つは時雨母の前。

 一つは来夢の前。

 最後の一つは、軽く上に放り投げて手元でもてあそんだ後に、自らの前に置く。

「って事で、この四人がそれぞれの起点を担当する事になる」

「なるほどね。それぞれの担当は?」

 時雨の父親の問いに、

紫雲しうんは、うちが担当してた郊外の起点を頼む。…知ってるよな?」

 父さんがそう答え、確認する。

 聖風家が知らなかったはずの起点だ。ちゃんと場所が分かっているのか、ふと不安に思ったのだろう。

 それに対して、紫雲さんは呆れた様な顔をする。

「おいおい、それは無いだろう。最初の起点が壊されてすぐに、現地に行って確認済みだっての」

 と、今度は別の所から驚きの声が上がる。

「え! 親父何時の間に行ったんだ? すぐって、俺よりも早くか?」

 時雨にとっては全くの予想外だったのだろう。

 おそらく、行方の分からなくなってる両親に変わって、自分が聖風家の務めを果たさなくてはいけないと思い、四方八方に手を尽くしていたのだろうから。

「ふふん、時雨。自分がもうイーストステアーズを継承したからって、父さん達を見くびって貰っちゃあ困るな。お前らが生まれる前から果たして来た務めだぞ。まだまだ子供には後れは取らんよ」

 はっはっは、と豪快に笑うリーゼントの中年男性に少し子供っぽさを感じたが、父さんは違ったらしい。

「おいおい、紫雲。その台詞は年寄り臭いぞ」

「な、何だと!」

 と、その指摘に愕然とする紫雲さん。

 だが、話が反れるのはそこまでだった。

「で? ふざけてないでさっさと話を進めなさい」

 冷ややかな声が、二人の中年の熱を冷ます――を余裕で通り越して一気に凍りつかせる。

 時雨の母親は、ぱっと見ではおっとりとした優しそうな印象だったが、どうやらそうでもないらしい事が判明した。

「は、はい。すみません。美来みらいさん」

「あ、ああ。すまなかった」

 一気にトーンが落ちた声で謝る父さんと紫雲さん。

「え、えーとそれでだ。担当起点、だったな。美来さんには、善恩寺の起点を担当してもらいます」

 何故か最後だけ敬語になっている父さんの説明。

「分かったわ」

 簡潔にそれだけ美来さんは応える。

「そして、聖風家の裏の起点。ここを出てすぐの所だな。そこは、来夢ちゃんに任せる」

「はい、分かりました!」

 この空気を少しでも明るくしようとしているのか、単に空気が読めていないだけなのか。

 来夢は元気に明るくそう答えた。

「そして、最後の起点。今現在も唯一残っている聖風学園裏の起点を担当するのが、俺と…一輝だ」

 父さんは、僕へと視線を向けながらゆっくりとそう告げた。


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