四つの起点
ここに来るまでに少し会話する時間があったが、星河は昨日の修行でクレセントムーンの力を引き出せる様になったと言っていた。
簡単に聞いた話をまとめると、僕と同じ様なアルドを感知する特訓から始まり、怪我の治療の仕方や結界の張り方など、僕とは違って様々な能力の使い方を習ったという事だ。
今日の計画では、星河がそのクレセントムーンの力で結界を張る事になっている。
「星河ちゃんが中心点で結界を発動するためには、その前段階として四つの起点を作らなくてはいけない。本来ならば、星河ちゃんが直接四か所を回って準備をするのが確実なんだが、今回はその時間が無い。という事で、星河ちゃんには別の方法の準備をして来て貰ってある」
父さんがそう言うと、星河は持って来ていたハンドバックを開け、中から石ころを取り出して机の上に置いた。
ころころと音を立てて机の上に置かれたのは、大体二センチ程の大きさで、形も色もバラバラの四つの石だった。
「ただの石…じゃないよな?」
ぱっと見はその辺にある石ころにしか見えない。その当然の質問は、時雨が星河に向けたもの。
だが、答えたのは父さんだった。
「元々はその辺にあった石だがな。今は、その石にクレセントムーンの力が込められている。その石を置きアルドを注ぎ込めば、立派な結界の起点の出来上がり、といった具合だ」
そう言いながら父さんは四つの石を手に取ると、一つ一つ別々に置いていく。
一つは時雨父の前。
一つは時雨母の前。
一つは来夢の前。
最後の一つは、軽く上に放り投げて手元でもてあそんだ後に、自らの前に置く。
「って事で、この四人がそれぞれの起点を担当する事になる」
「なるほどね。それぞれの担当は?」
時雨の父親の問いに、
「紫雲は、うちが担当してた郊外の起点を頼む。…知ってるよな?」
父さんがそう答え、確認する。
聖風家が知らなかったはずの起点だ。ちゃんと場所が分かっているのか、ふと不安に思ったのだろう。
それに対して、紫雲さんは呆れた様な顔をする。
「おいおい、それは無いだろう。最初の起点が壊されてすぐに、現地に行って確認済みだっての」
と、今度は別の所から驚きの声が上がる。
「え! 親父何時の間に行ったんだ? すぐって、俺よりも早くか?」
時雨にとっては全くの予想外だったのだろう。
おそらく、行方の分からなくなってる両親に変わって、自分が聖風家の務めを果たさなくてはいけないと思い、四方八方に手を尽くしていたのだろうから。
「ふふん、時雨。自分がもうイーストステアーズを継承したからって、父さん達を見くびって貰っちゃあ困るな。お前らが生まれる前から果たして来た務めだぞ。まだまだ子供には後れは取らんよ」
はっはっは、と豪快に笑うリーゼントの中年男性に少し子供っぽさを感じたが、父さんは違ったらしい。
「おいおい、紫雲。その台詞は年寄り臭いぞ」
「な、何だと!」
と、その指摘に愕然とする紫雲さん。
だが、話が反れるのはそこまでだった。
「で? ふざけてないでさっさと話を進めなさい」
冷ややかな声が、二人の中年の熱を冷ます――を余裕で通り越して一気に凍りつかせる。
時雨の母親は、ぱっと見ではおっとりとした優しそうな印象だったが、どうやらそうでもないらしい事が判明した。
「は、はい。すみません。美来さん」
「あ、ああ。すまなかった」
一気にトーンが落ちた声で謝る父さんと紫雲さん。
「え、えーとそれでだ。担当起点、だったな。美来さんには、善恩寺の起点を担当してもらいます」
何故か最後だけ敬語になっている父さんの説明。
「分かったわ」
簡潔にそれだけ美来さんは応える。
「そして、聖風家の裏の起点。ここを出てすぐの所だな。そこは、来夢ちゃんに任せる」
「はい、分かりました!」
この空気を少しでも明るくしようとしているのか、単に空気が読めていないだけなのか。
来夢は元気に明るくそう答えた。
「そして、最後の起点。今現在も唯一残っている聖風学園裏の起点を担当するのが、俺と…一輝だ」
父さんは、僕へと視線を向けながらゆっくりとそう告げた。




