始まる会議
「とりあえず聞くけど、その計画名って父さんが考えたのか?」
身内の恥を晒された様な気がして居ても立っても居られずに、僕はそう問いかけていた。
「ああそうだぞ。分かり易くて良いだろ」
あっさりと肯定されて、なんだか頭が痛くなってくる様な気がする。
「まぁ計画名なんて何でも良いけどな」
「相変わらずの礼也のネーミングセンスだな」
「全くだ」
「私は良いと思いますわ」
などという時雨やおじさん達の言葉を聴きながら、僕はホワイトボードから意図的に視線を外す。
すると、すぐ横に座っていた星河と目があった。
星河は、にやりとした笑みを浮かべるだけで何も言って来ないが、内心では僕を指さして大笑いしているんだろう。流石に、この状況でそれは出来ないのだろうから。
すると、反対側から服の袖が引っ張られる。
振り向くと、来夢がこちらを見ていた。はっきりとは分からないが、何かを目で訴えている様な――目は開いていないのだけれども。
何か言う事があるのかと待ってみるが、何も話さずに来夢は握っていた袖を話し、正面へと向き直る。
何がしたかったのかと小首を傾げながら、僕も前に立つ父さんへと視線を戻すと、
「んじゃま、会議を始めますか」
そう言って、父さんが話を切り出した。
「とりあえず、今夜作戦を敢行する理由の一つが、時雨君がアンビシュンに対してメッセージを送ったという事実があるからだ。そうだよな?」
父さんが話を振ると、時雨は大きく頷く。
「今日の夜八時に、近明高校の校庭に来るようにとメッセージを用意した。きちんと伝わったかどうかは分からないが――」
そこで、時雨は僕の方向へと顔を向ける。
「一輝の話じゃ、きちんと今夜、アンビシュンの奴らは校庭に来るみたいだぜ」
「予知夢、ということか」
父さんが呟く。
ここに居る全員がもう既に、僕の、というか如月家の者の予知夢については理解している。
つまり、夢に見たという事は、それが必ず現実になるという事が分かっているという事だ。
「つまり、時雨を囮として、アンビシュンが学校に集まっている隙に、結界を張り直してしまおうっていう計画なのよね?」
そう言ったのは時雨達の母親だ。
「簡単に言うとそうなるな。だが、問題は結界を張る手順だ」
父さんはそう言うと、その場に居る全員の顔を見渡す。
そして、改めて口を開く。
「結界張るためには、ここに居る全員の協力が不可欠となる。まず、一番の問題は、新しい結界を張るためには、今ある結界を一度解除しなくてはならないという事だ。時間が経って効果が低減してきていると言っても、今現在は結界が有るからこそ、攻めて来ているアンビシュンの数が限られている。この結界を解除して、新しく結界を張り直す前にアンビシュンが大量に攻めて来る…そんな事になったら本末転倒だ」
「じゃあどうするんだ?」
問い掛けたのは星河の父さん。
「解決手段は一つ。結界を解除したらすぐに、アンビシュンが攻め込んでくる隙を与える事無く、新しい結界を張る」
「そのすぐってのはどの位なんだ? 一体どれだけの猶予が有る?」
再び修司さんの問いかけ。
「奴らは先発隊として今こちらに居る部隊を送って来たんだろう。だとしたら、今か今かと結界が解かれるのを待ち構えているかもしれない。流石にすぐには結界が解かれないと思っていて、解いたと報告が行くまで何も準備をしていないかもしれない。はっきり言って、これは解いてみないと分からないんだが、こればっかりはやってみて駄目だったという訳にはいかない。当然、最悪の事態を想定して動く事になる」
「となると、解いて一瞬の隙も与えずに張り直すという事か」
時雨の呟きに、父さんは頷く。
「そのために、全員で協力して一気に全ての起点を作り出し、結界を張らなければならない。という事で、時雨君を除く七人は五つの箇所に分かれる事になる。まず、結界を発動させる、その中心点。ここにはもちろん星河ちゃんに行って貰う事になる」
「はい」
星河が短くそう答えた。




