決戦の日
九章 結界
日が明けて翌朝、僕は久しぶりに夢を見ずに目を覚ました。
昨日までの怒涛の予知夢ラッシュは、アンビシュンが身近に迫った事で能力が自然と目覚めていたためで、修行をして能力の目覚めが落ち着いたから、もう予知夢を見なかったのだろうか。
予知夢とは既に確定した未来だという事だ。
という事は、自分が意識しない内に能力を使ってしまってた――それが抑えられたという事だろうか。
何にせよ、これだけ気分の良い目覚めは久しぶりだった。
昨夜、修行の後にその場で眠り込んでしまった僕は、そのまま朝まで眠ったままだった。
とは言うものの、目を覚ましたのは自宅の自室、ベッドの上だ。
普段と変わらぬ目覚めに、洗面所まで行った後になってやっと、どうして自分が自室で寝ていたのかという疑問が湧いて来た程だ。
驚くべき事に、昨日聖風邸から修行場所に僕を運んだのも、修行場所から自宅へと運んだのも実は来夢だという事だった。
いくら父さんでも、高校生男子を背負ってそれだけの距離を移動したのは大変だっただろうなと思って、お礼を言おうと話し掛けた結果、教えられたその事実。
特訓の時も風を操っていた来夢だったが、どうやら風や空気といった物を操る能力が得意らしく、僕をふわふわと空中に浮かせながら運んだらしい。
寝ていたためにその最中の記憶は全く無いのだが、空中に浮くというのは一体どんな感覚なのだろうかと少し残念に思う。
ちなみに、人が横になって空中に浮いている所など他人に見られたら大変という事で、映像を誤魔化す能力も来夢が同時に使っていたらしい。
クレセントムーンが無くなったと言っても、それだけの事が出来るのだと感心させられた。
昨日の校庭爆発事件の影響で、今日も一日学校は休みとなった。ちなみに、妹の方も同様だ。
聖風家の事情を聴けば、妹の方の聖風学園が休みになるのは当然の話だが、そんな事は全く知らない未鈴は、単純に明日からの週末と合わせて連休になったと喜んでいた。
そう、妹は知らないのだ。シュトゥルーから続く、我が家の事情を。
この家で事情を知っているのは、父さんと僕、そして母さんだ。
母さんは、父さんから大体の流れを聴いて知っているそうだが、父さんの方針でシュトゥルーに関する事には積極的には関わらないという事にしたらしい。
同様の理由で、未鈴には話すらしていないという事だ。
まぁ、僕も今まで知らなかったのだから当然か。
これらは父さんから聞いた話なので、母さんがどう思っているのかは分からないが、今はその父さんの方針に母さんは従っている。
これから僕らが危険な場所へと足を運ぶ事になったとしても、母さんは家で僕らの帰りを待っている。そういう事になっているそうだ。
そして、日高家についても父さんに話をきいた。
クレセントムーンの継承者が月夜さんだったというのは予想通りだったが、その夫である修司さんにはその事実は全部伝えられているそうだ。
つまり、結界を張るために月夜さんが命を削り、若くして亡くなったのだという事。
つまり、星河も同じ運命を辿る事になるのだという事。
星河に関しては事情が変わって、死ぬ事は無くなったのだけれども。
ちなみに、それらの日高家にまつわる事情は、再婚相手の綾子さんや息子の宙には伏せてあるとの事だ。
そんなこんなで、昼過ぎ。
僕らは昨日と同じく、聖風邸の地下室に集合していた。
今、この場に集まっているのは八人。
僕、星河、時雨に来夢の高校生四人に、父さん、星河の父さん、聖風家の両親の親組の四人だ。
これから、今夜行われる対アンビシュン計画の最終打ち合わせが行われる。
机を囲む様な形で皆が椅子に座る中、僕の父さんだけが立っていて、その後ろには、何処から持って来たのかホワイトボードが置かれていた。
そこにはでかでかと黒のインクで「結界張り直そうぜ計画!」と、見覚えのある字で書いてあった。




