明日に向けて
「そこまで出来る様になったか。ならば、今日の所は十分だな。これで終わりにしよう」
と、父さんは呆気なく終了宣言をした。
「父さん! ちょっと休めば……まだ出来るよ!」
疲れ果てて倒れている僕の不甲斐無さからの判断かと思い、僕は目を見開き、力を込めてそう反論する。
だが、父さんはゆっくりと首を横に振る。
「これ以上無理しても、良い効果は得られないぞ。休息も必要な事だ」
「でも――」
まだだ。まだやり足りない。
確かに、見える未来の数は増えてきた。だが、まだ伸びしろがあるのがはっきりと分かる。
一回一回、やり直す度に新しい物が見えて来るのだ。
次やれば、もっと先に進めるんじゃないか――そんな思いが自然と湧いて来る。
「かずくん、無理しちゃ駄目だよ」
喉元から出かかっていた僕の言葉は、その来夢の言葉に遮られる。
そして、続く父さんの言葉。
「お前はまだ、アルドを使うって事がどういう事なのか分かって無い。今、無意識にしろアルド使ったんだ。それも、大量にな。それが運動後の体力と同じ様に回復すると思ったら大間違いだ」
「そうだよ、かずくん。今のかずくんには十分な休息が必要だよ。体の傷は私の能力で治せるけれども、失ったアルドを補充するのは無理なんだよ。まぁ、ちょこっと分け与える位なら出来るけれども…全快するには、やっぱり時間を掛けるしかないんだよ」
「そして、俺達には万全の状態で挑まなきゃいけない事が、明日に控えている」
それは、時雨の招待状によってザルードが学校に誘き寄せられている間に、結界を張り直す事――
夢と現実との繰り返しに、記憶がごっちゃになってしまっているが、
「父さんは、明日するべき事が分かっているのか?」
結界を張るとかいう話は星河と時雨としていた…はず。
予知夢で見た、結界が張られる瞬間――だが、僕達は結界を張る方法は知らない。
結論としては、親達が結界の張り方を知っているだろうから、その後の事は親に確認してから…という事になったはず。
「まあな。この最後の起点に張られた結界、これはそう簡単には破れない。だから、アンビシュンの奴らは今日一日で結界破壊はひとまず諦め、目標を変えて来るだろう。先に三つの至宝の内のいずれかを手に入れ、その力をもって結界を破壊する、という様にだ。だからこそ、時雨くんは明日の夜に決戦を挑む判断をしたんだろう。その時点では、クレセントムーンもクラウドルインズもその行方ははっきりしてなかった訳だからな」
僕が意識を失った後に、時雨達と方針をきっちり話し合ったのか。それとも、僕らに気付かれない様にずっと動向を探っていたのか。
どちらにしろ、父さんは明日やる事も視野に入れて、今日の修行はここまでだと判断しているという事だ。
それは分かったが、という事は、
「明日の予定には、俺の活躍の場面もきっちりあるって事か?」
問い掛ける。
それに対して父さんはにやりと不敵な笑みを浮かべる。
「当然だろ。お前がクラウドルインズの正当な継承者となるんだ。むしろ、計画の要と言っても良い位だな」
「何をするんだ?」
「それは、また明日の昼間の内に打ち合わせする事になってる。人数そろってないと出来ない計画だからな。だが、少なくともお前が万全な状態でないと困る事は確かだな」
時雨がザルードと戦っている裏で、こっそりと進める計画だ。皆が息を合わせてやらなきゃならない様な事なんだろう。
「わーったよ。それじゃあ俺は、後は回復に専念する。それで良いんだろ?」
「そういう事だな」
父さんが頷くのを目にし、再び目を閉じる。
そして、投げ捨てる様に口にする。
「んじゃ、心置きなく休ませて貰うぞ」
同時に気も抜けたのか、そのまま地面の上で横になった姿で、あっさりと僕の意識はまどろみの中へと落ちて行った。




