増える未来
「どうした? もう集中が途切れたか?」
父さんの問いに、僕は叩かれた頭をさすりながら答える。
「いや、今のは…残像が…未来が二つ重なって見えて。どうしたら良いのか迷ってたらこうなったんだ」
すると、父さんは驚いた様な表情を浮かべ、
「おいおい、もう重なる未来が見えたってのか。こりゃ思ってた以上に上達が早いな」
と、感嘆の声を上げた。
「やっぱり、二つの可能性の未来が見えたって事なのか?」
「そうだな。そして、その中でお前が一つを選ばなかった結果が今の結果だ。選ぼうが選ぶまいが、時間は進んで行く。その一瞬の間に、自分が望む未来を選べ」
そうは言っても、どうしたら良いのか分からない。
「望む未来を選ぶってどうするんだよ? 自分が受け止めようとしてコイツを構えれば、そこを通って木の棒が振られる未来が選ばれるのか?」
僕は、手で握る円筒を見つめながら問い掛ける。
「未来を見て、その中の一つに合わせてお前は行動する――それだけでは、未来を選んだとは言えないな。それじゃあ、起こるであろう物事を予想して準備するのと、何も変わらない」
「じゃあ一体どうすれば良いんだよ?」
「お前自身が、つかみ取るんだ。その未来を。落ちてきた林檎に手を伸ばす様に、見えた望む未来に手を――そのクラウドルインズの能力を伸ばせ」
能力を使って未来を引き寄せる、と。そう言われてもやり方はさっぱり分からない。
「悩む必要は無い。それまでもやっていた、未来を見るという能力も、何か意識してやっていたか? 違うだろ? 無意識にやっていたはずだ」
僕が考えを巡らせるよりも早く、父さんがそう続ける。
そうだ。未来を見るというこの力自体、やり方を教わる事無くやっているんだ。
教えて貰ったのは、ただアルドを感じる方法だけ。
それさえ出来れば、後は自然と出来るという事だ。
僕は覚悟を決めて口を開く。
「分かった。やってみるよ。次、よろしく」
その言葉に、父さんは頷くと再び木の棒を振り上げた。
やはり、最初の行動では見えたのは一つの未来だけだった。
振り下ろされる木の棒に円筒を合わせて難なく弾き返す。
続けて父さんは、全く同じ軌道で木の棒を振り下ろす。
これも、同じ様に一つの残像を伴うだけ。
すると今度は、三撃目にして左横から振り払う。
見えたのはそのまま横に振り払う残像と、上方向へと斜めに振り上げて行く残像。
この場合、受け易いのは直線の動きである真横の振り払いだ。
僕はその動きに合わせて手の中の円筒を構えつつ、念じる。
そうなれ! と。
一瞬早く、振り上げて行く残像が消えた様に見えたが、もう一つの残像も同じ様に消えてしまったために確証は持てない。
だが、僕が構えた円筒は、見事に横薙ぎに払われた木の棒を弾き返していた。
そして、弾いている限り、攻防は終わらない。
再び父さんは真上から木の棒を振り下ろそうとして、残像が現れる。
しかし、それは元の一つに戻っている。
上に振り上げた時点で、真下に振り下ろす以外の可能性がほぼ無くなってしまうという事なのだろうか。
今の僕の力では、ある程度確率の高い未来しか見る事が出来ないという事だろうか。
そんな事を考えている内に、真上からの振り下ろしを弾き返し終える。
すると、先程叩かれた時の様に、父さんは木の棒を握る手を切り替える。
いや、違った。
握り変えているのは残像だ。
もう一つ、そのままの手で再び振り下ろそうとする姿もそこに重なっていた。
すぐさま僕は意識する。握る手を変える未来を。
理由は簡単で、そのまま振り下ろされるよりも持ち変えた方が、時間的に余裕が出来るからだ。
と、今度こそ、そのまま振り下ろす残像の方が先に消えたのがはっきりと確認できた。
消えて、体感として一秒程の間があってから、残った残像に沿う様にして父さんの身体が動き出す。
順調に慣れて来ている――そう思うのと、再び残像が現れるのはほぼ同時。
逆の手で握られた木の棒が、右横から振り払われる残像と、真上から振り下ろされる残像。加えて、上から左下に向けて斜めに動くという三つ目の残像も現れた。




