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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
八章 雲之遺跡
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選手交代


 父さんは立ち上がり、今度は来夢の元へと近付いて来た。

 そして、来夢の肩にポンッと手を置く。

「来夢ちゃんお疲れ様。ここから先は、俺が相手をさせて貰うよ」

 そう言って、来夢へと笑みを向けた父さんは僕へと振り向く。

「今度は父さんが相手って事?」

 僕が問い掛けると、父さんは頷きつつ、

「ああ、修行はまた次の段階だ」

 そう口にした。

「あの、私まだ手伝えますよ?」

 すると、来夢が恐る恐ると言った感じで父さんへとそう提案する。

 だが、父さんはそれには首を横に振る。

「その申し出は嬉しいんだが、こっから先はクラウドルインズの継承者同士の方が都合が良いんだ。すまないな」

「い、いえ。私の方こそ出過ぎた事を言ってしまいました。すみません」

 慌てて謝り返す来夢。

 そのまま、来夢は父さんが座っていた辺りまで下がって行くが、後ろ姿がしょんぼりしている様に見えたのは恐らく気のせいではないだろう。

 来夢が腰を下ろすのを待っていたのか、丁度座った所で父さんは話し出した。

「それで、今までの来夢ちゃんとの修行のお陰で、お前はアルドを十分感知できる様になった。次の段階は、いよいよ予知をして貰う事になる訳だが…」

 と、父さんの右手にはいつの間にか木の枝の様な物が握られていて、それを僕に向けて放り投げて来る。

「うわっとっと。ん? 何だこれ?」

 突然の事で落としそうになるが、何とか無事に手の中に納まったそれは、二十センチ程の円筒状の物体だった。リレーのバトンの様なものだと言えば分かり易いか。

 ただ、重さは見た目以上にあり、円筒の中心部分には何か石の様な物がはまっている。

「それが、我が家に伝わっているクラウドルインズの欠片だ。正確には、そこにはまっているものが、だがな」

 これが、クラウドルインズ――星河に渡した三日月型の石、それとはまた全然違うものだな。

「って事は、この先はこれを使って?」

「ああ、そうだ」

 と、また父さんの右手にはいつの間にか木の枝の様な物が握られている。

 いや、今回は違った。それは、まぎれもない木の枝だった。

 父さんはその木の枝を持った手を正面に構えると、話を続ける。

「俺がこの枝をお前に打ち込むから、お前はそのクラウドルインズで受け止めろ」

 えーと、それはつまり、

「剣道の打ち合いみたいな事をやれって事か? この短いので?」

 もちろん、剣道なんてのは未経験だが、はっきり言って短すぎる。

 この短い得物で、同じ位の長さの木の枝を受け止める…そんなの無理だろう?

 すると、そんな僕の内心を読んだ様に、

「そんなのは無理だと思っただろう? ったく、お前はこれが何の修行なのか忘れたのか?」

 何の修行かだって?

 それは、クラウドルインズの能力の修行だ。

 僕がもっと上手く能力を使える様に――

「ああ、そうだった。予知…するのか」

「そうだ。お前は可能性の未来から選び取るんだ。確実に、俺の攻撃を受けられる未来をな。未来を選び取れるなら、これ位の芸当は朝飯前だろう?」

 にやにやといやらしい笑みを浮かべながら父さんの言葉に、イラッとさせられる。

 恐らく、父さんはわざと煽っているのだろう。

 そしてその理由は、先程までの修行の中で分かっていた。

 そう、アルドを感知するという事は、意識を集中するという事。

 つまり、父さんはわざと僕の感情を揺らし、意識の集中をし辛くしているのだ。

 そして、どんな時でも意識を集中する事が大切なのだと教えてくれているのだろう…たぶん。

「向かって来るアルドを感知する事は出来る様になった。今度は、自らのアルドを使い、可能性の未来を見る――」

「そういう事だ。お前が持つクラウドルインズが、自然とアルドを使うって事を実現してくれるはずだ。お前はただ考えれば良い。どうやれば、俺の攻撃を受けられるか、とな」

 僕は小さく頷く。

「分かった。やってみるよ」

「よーし! それじゃあ、そろそろ父親の実力って奴を見せてやろうか!」

 父さんはそう気合を入れると、一歩前に踏み出した。



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