見える! 見えるぞ!
始めてから三十分程の時間が経過していた。
始めの内は、気が付けば体に傷が増えていたという状況だったが、回数を増す毎に、段々と視界に映るものが変わっていっていた。
いや、正確には視界に映っている訳ではないのかもしれないが。
次第に、来夢から淡い光が迫って来る様な感じがしてきたのだ。
始めは目の錯覚かと思う位のものだったが、今となってははっきりとした輝きが僕の顔の横を通り抜けて行くのが分かる。
そして、その輝きが僕の傍を通り過ぎて後ろに行ってしまっても、光がそこを移動しているという事がはっきりと分かる。
「さってと、そろそろ次の段階に進んでも良さそうだな」
黙って僕らの様子を眺めていた父さんが、そう言って立ち上がった。
「次の段階?」
僕が振り向き、問い掛けると、父さんはそのまますぐ傍までやって来る。
そして、僕の背中をバシンッと手の平で叩く。
「前に出ろ」
「あ、ああ」
言われるがままに前に進む。
そして、来夢との距離がそれまでの半分位になった所で、
「よーし、それ位で良いだろ」
父さんはそう言って、元居た場所に戻って行く。
「え、いや、これでどうするんだ?」
「そのままだ。今までと変わらず、来夢ちゃんの風を避けるだけだ。だが、距離が縮まって避けるまでの時間が縮まった訳だから…な?」
つまり、今まで以上の判断速度が要求されるって事か。
ここまでやってきて、自分ならやれると自信が付いてきている。
迷う必要は無い。
「分かった。来夢、続き頼むよ」
黙って僕らのやり取りを見守っていた来夢へと視線を戻しそう言うと、
「うん、順調だよ! 頑張ろう!」
来夢が励ましの言葉と共ににっこりと微笑んだ。
再び三十分程の時間が経過した。
自分でもはっきりと分かる程、僕の見える世界は変わっていた。
来夢を包む淡い光の一部分が、他の部分に比べ色が濃くなるのを感じる。
次の瞬間、その濃い緑の光が僕に向かって撃ち出される。
光は直線の軌道を取って迫って来る事は分かっているので、その軌道を予測し僕はそこから体を逃がす。
だが、そこで終わりではない。
僕が体を動かしている間にも、来夢の周囲では新たな濃い緑の光が生まれる。
頭の十センチ程横を最初の光が通り過ぎて行くの顔を向けずに確認し、次に来るであろう光の軌道から再び逃れる様に動く。
すると、今度は来夢の周りで二つの強い光を感じる。
右脇腹と腕の間を光が通り抜けて行くのを感じつつ、今度は左足を後ろに引きながら左上半身を後方へと反らす。
それまで左胸と左腰があった位置を光が通り過ぎて行くの確認し、僕は元の来夢と向き合う格好へと体を戻す。
ひとまずは、これ以上緑の光は迫って来ない様だ。
と、思ったのは早計だった。
右後方に何かを感じ、僕は慌てて上体を左へと反らす。
そこでやっと、右肩をかすめる様にして後方から来夢の方へと飛んで行く緑の光を捉える。
そして、今度こそ終わりの様だ。
何故なら来夢が、
「凄いよ、かずくん! 不意の反応も完璧だね!」
と口を開いたからだ。
「いやいや、まさか急に後ろから来るとは思わなかったよ。今の避けられたのは、ホント運が良かっただけだから」
これまでずっと続けて来て、後ろから来たのはこれが初めてだった。
全く予期していなかったため、反射で動いた体が運良くその軌道から外れた――それだけだ。
まだまだだな、と調子に乗り始めていた自分自身へと気合を入れ直し、「次を――」と来夢へと言おうとしたその時、
「そこまでだ!」
父さんの大きな声が響いた。




