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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
八章 雲之遺跡
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特訓開始!


 と言う事で、やっと特訓と呼べるものが始まった。

「時間をかけてじっくりという余裕は無いからな。手っ取り早く実戦で覚えて貰う事にした」

 そう言った父さんの前で、僕と来夢が十メートル程の間隔を空けて、向き合って立っている。

 どうやら、来夢が僕の特訓を手伝う事になっているらしい。

 父さん曰く、僕が寝ている間に打ち合わせは終わっている、との事だ。

「じゃあいくよ!」

 何の説明も受けないまま、来夢が開始の宣言をする。

 父さんはこれ以上何も説明する気はなさそうなので、何が始まるのか来夢に意識を集中する。

 すると、来夢の周囲が薄らと明るくなった様な気がする。いや、気のせいではなった。

 来夢を中心として、ぽうっと薄く緑色がかった光が発生していた。

 暗闇の中で見るそれは蛍の光の様ではあるが、大きさが段違いなので明るさはこちらの方がずっと上だ。

 だが、それに見取れている暇は無い。

 次の瞬間、右の頬に痛みが走る。

「え?」

 僕は驚き、手をそこに当てると濡れた感覚がある。触れた手を視界に入れると、そこには赤い跡があった。

 そう、右頬にうっすらと切り傷が出来ていたのだ。

 出血量は大した事は無い様なので、ほんの小さな傷だった様だが、一体何が起きたのか全く分からなかった。

 視線を前に戻すと、相変わらず来夢の周りは淡く緑に輝いている。

「どうだ? 何か分かったか?」

 と、不意に父さんが声を掛けて来て、僕はそちらへと視線を動かす。

「いや、全然…。何が起こったんだ?」

 その問いに答えたのは来夢だった。

「今、私の能力で、小さな風の刃をかずくんに向けて放ったんだよ」

「風の刃…?」

「うん、小さな竜巻…みたいなものかな? 触れたものを切り裂くの」

 何だか物騒な事を言っているが、

「それって、当たっても大丈夫なのか…な?」

 恐る恐る問い掛ける。

「ん~今のは頬をかする様に撃ったから小さなかすり傷だったけど、真正面から当たったら…もうちょっと深い傷にはなるかな?」

 いやいや、もうちょっとってどの位だよ!

 とにかく、直撃したらやばいという事は分かったが…。

 と、外野から声が聞こえて来る。

「大丈夫だ―死にはしないからなー」

 わざわざ棒読みでそう言って来る父さんに、若干イラッとする。

「傷ついても、私の癒しの力でちゃんと治るから、安心して良いよ、かずくん」

 来夢のその言葉に一安心するが、続く言葉にその気持ちは打ち砕かれる。

「でも、クレセントムーンがある時よりは能力落ちてるけどね」

 わざわざ、それって付け足す必要あるところなのか…?

 不安が増すだけなのだけれども。

「とにかくだ、お前はまずはアルドが分かる様にならないといかん。来夢ちゃんがそうやって飛ばしてくる風は、アルドによって作られたものだ。風は目で見る事は出来ないが、アルドを察知する事でその風を見る事が出来る。いいか、アルドを感じるんだ!」

 ここにきてやっと特訓内容を明らかにする父さん。

 最初から、まずは一回見てから説明するつもりだったのだろう。

 にしても、

「アルドってのはどうやって見るんだ?」

「見るんじゃない、感じるんだ!」

 そう言われても、さっきのは全く分からなかったんだが。

「いや、もっと具体的に何かないのかよ?」

「お前には元々素質はある。後は慣れだ。今のを何度も繰り返してれば次第に分かって来るはずだ。って事で、来夢ちゃん頼むよ!」

「はい、お義父様!」

 相変わらずの即答に若干不安が増す。

「いや、ちょっ――」

「じゃあいくね、かずくん!」

 僕の言葉はかき消され、再び来夢の周りの光が増す。

 あーもーどうにでもなれだ。ごちゃごちゃ言っている暇は無い、という事か。

 そうして僕はようやく腹をくくり、来夢から飛んで来るであろう風の刃に意識を集中し始めた。


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