託されし未来
ここまで話を聞けば、大体予測は付く。
御先祖様達は見たのだ。自分達の子孫、僕達の代の者達がアンビシュンを撃退する未来を。
だからこそ、託したのだろう。
であるならば、僕はそれを信じて自分に出来る事をするしかない。
「それで、クラウドルインズの力ってのは分かったけれども、修行とやらは何をするんだ?」
だが、父さんはその問いにはまだ答えてはくれない。
「その前に確認しておきたい事がある。お前は、可能性の未来をもう既に見ているんだよな?」
「可能性の未来?」
「そう、予知夢の未来は既に確定した未来だってのは分かっただろう? それとは別に、まだ確定していない未来――重なり合っている、同時には起こらない未来を見る事は出来ているんだよな?」
同時には起こり得ない未来。
それは――星河と来夢、それぞれにプロポーズしていたあの夢の事を指しているのだろうか。
「確かに、そんな夢を見た」
その言葉はすぐに否定される。
「それは夢ではない。お前が最初にしなければならないのは、今まで見て来た予知夢と、可能性の未来とをきちんと見分ける事だ」
「そうは言っても、あの時も同じ様に俺は寝ていた――いや、意識を失っていたのか?」
「ほらみろ、普段とは違ったんだろ。それにな、可能性の未来を見ている時間は一瞬だ。例えその内容が、お前には数十秒、数分に感じられたとしても、現実に経過する時間は一瞬だ」
それは、つまり、
「数秒後の未来を予知できる事に意味が出来る、と」
僕の呟きに、父さんは満足そうに頷く。
そして、止めていた足を動かし出す。歩いて来た、丘の中心の巨木に向かって。
「んじゃ行くぞ」
僕はその後に続きながら問い掛ける。
「行くって何処へ?」
「んな事決まってんだろ。待ち人がいるじゃねーか」
来夢の事か。
ここから先の事は、彼女に知られても大丈夫だという事か。
というか、恐らく彼女に知られたくなかったのは、父さんが彼女の記憶を僕から消したという事実だけの気がする。
「来夢には、記憶が消されていた事は話さない方が良いのか?」
もう僕が聖風家と関わらない様にする必要はない。
ならば、記憶の事を隠そうとしている理由が、何か他に有るはずだ。
「そりゃあ、もちろんな。俺が嫌われてしまうだろ?」
「は?」
予想外過ぎる返答に、僕は言葉を失う。
嫌われるって? 誰が、誰に?
「来夢ちゃんは如月家の嫁候補だからな。嫌われてしまったら、後々大変だろー」
続く言葉も意味不明だ。
「何を言ってるんだ…父さん」
しばらくの沈黙の後、ようやく口に出来たのはそんな言葉だった。
「照れるな照れるな、昔はあんなに仲良かったじゃねーか。あの髪だって、お前が綺麗だって言ったからずっと切って無いって聞いてるぞ? って、そうか。記憶が無かったんだな。はっはっはっは」
胸の奥から込み上げて来るムカムカとするものを、何とか抑えながら僕は言葉を口にする。
「父さん…それ……本気で言ってるのか?」
コイツは! 自分で記憶を消しておきながら! どの面下げてそんな事を言っているのか!!
だが、返って来るのは能天気な返事。
「そりゃあ、当然だ。あんな美人はそうそういないぞ? 俺があと二十歳若かったら、自分で口説いてる所だな。まぁ、お義父さんって呼ばれるのも悪くは無いがな」
あまりにも空気を読まないその台詞に、イライラしている自分がアホらしく思えてくる。
大体、昔は良く会っていたとしても、ここ数年間の間は全く会っていなかったんだぞ?
父さんは、僕とは関係なく聖風家と付き合いがあって、その中で来夢と会い続けてたとでもいうのか? 来夢にそこまで入れ込んでるのはどういう理由だよ!
それに、例え何か理由があったとしても、ほぼ毎日顔を合わせていた星河の方が――
そこまで考えを巡らせた所で、僕は一気に冷静になる。
一体僕は、今、何を考えていたのか…。
これじゃあまるで、僕は星河が――
「あーーーーーもう良いよ! 今はそんな事言ってる場合じゃないだろ、修行だ修行!」
僕は走り出し、父さんを追いこして先に丘の中央を目指す。
「おう、話してたら、早く顔が見たくなったか?」
後ろから何か聞こえてくるが気にしない。
そのまま、僕は走る速度を上げて、丘を駆け上って行った。




