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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
八章 雲之遺跡
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本当の力


 そこで、父さんは微笑む。

 教え子が、やっと正しい答えが分かったという事を喜ぶ様に。

「その通りだ。さっきの例えで言えば、今この瞬間に、一時間後に手を上げるという事を確定させる能力――それが予知夢だ」

 やはり、例えにされても分かり易くなった気がしないが、言いたい事は分かる。

「じゃあ、僕は無意識の内に、未来を確定させてきたって事になるのか…」

 その事実に、背筋に冷たいものを感じる。

 今まで見て来た予知夢の中に、取り返しのつかない様な未来はなかった。

 だがそこに――例えば、誰かが大怪我をして、生涯残る様な傷をおってしまったり、それ以上の怪我で死んでしまったり――そんな未来を見てしまっていたらと考えると……。

「だからこそ、俺は幼い一輝に聖風家と関わるのを止めさせる事にした。まだ、力の使い方が良く分かっていない内に、知識だけ身につけて力を暴走させる事の無い様にな」

 その父さんの言葉に、僕は問い返す。

「知っている事が、見る予知夢に影響するという事?」

「そうだ。例え、無意識であったとしてもな。そして、一輝、お前は今、予知夢が未来を確定させる力だと知った。どうする?」

 どうするって…未来が自分の思う様に確定出来るなら、思い通りにしたい。

 だが、そんな事が本当に可能なのか?

 もし、自分の好きな様に未来を決められるのだとしたら、それこそ世界を思い通りに作り変える事だって可能だという事になるのではないか。

 と、やはり僕の内心を読んだ様に父さんが話を進める。

「ふふ、そうだ。自分の好きに生きられる様にしたいよな。だが、そこまで万能の力じゃないんだな、クラウドルインズは」

 がっかり、というよりは、安心した。

 そこまで重い物を背負わされているのでは無いという事に。

「じゃあ、クラウドルインズの力は何処までの事が出来るっていうんだ?」

「クラウドルインズの能力――それは、無数にある可能性の未来から、自分の望む未来をつかみ取る力」

「可能性の未来…?」

「お前は、並行世界という言葉を聞いた事があるか? 例えば、この世界の未来には俺が右手を上げた世界と左手を上げた世界、二つに枝分かれした未来が存在するという事だ」

 並行世界というのは聞いた事はあるさ。

 タイムトラベルものの物語では、良く有る話だ。

 過去に時間移動して戻ってきたら、全く別の世界になっているとか、未来を変えるために未来人がやって来るとか。

 それはつまり、過去や現在の行いで別の可能性の世界――並行世界に移動したという事だ。

「無数にある並行世界から、クラウドルインズの力で望む未来を持ってくるという事が言いたいのか?」

「言いたいのはそこじゃ無い。未来は無数にあるといっても、今この瞬間の可能性は有限だという事だ。例えで言えば、俺が右手を上げるか左手を上げるか。はたまた、両手を上げるか、どちらも上げないか。可能性としてはこれ位しかない。だがそこに、別の要因が入ると可能性はもっと広がる」

「別の要因?」

「そう、例えば、この瞬間に俺の真上に隕石が降って来て、手を上げるどころじゃ無い状態になるとかね」

 確かに何でも起こるとするなら隕石が降って来る何ていうトンデモな未来もあるかもしれないが、

「そんな事、起こる可能性はゼロだろう」

「その通り。隕石が降って来るならば、もっと前の時点で、上空でこの場所に向かって落ちて来ていなければならない。もっと前の時点から見れば可能性はゼロでは無いが、今この時点から見れば可能性はゼロだ。起こり得る事は限られている」

 何だか凄く回りくどく説明された様な気がするが…。

「要は、起こり得る範囲で望む未来を予知出来る様になれって事か?」

 僕の言葉に、父さんは少し考え込んだ後に答える。

「そういう事だな。だが、話した通り、遠く離れた未来は可能性の幅は広くなるが、その分望む未来の確率はずっと低くなりそれを引き当てる事が難しくなる。予知夢で望む未来を見れないというのはそういう事だ。遠過ぎて選びきれず、無数にある未来の中から適当に一つを選んでいるだけなんだ。逆に、未来はすぐ後ならば可能性の範囲は狭いが、望む未来の確率は高くなる」

 予知夢については、妙に納得出来た、今まで心の中で渦巻いていた疑問が一気に解決された、清々しい気分だ。

 だが、父さんが言いたいのはその後の部分だろう。

「一瞬後の未来を予知出来る様になれと?」

 父さんは首を横に振る。

「数秒後だな。一瞬であれば、俺にも出来る。だが、それだけじゃ足りないんだ。必要なのは数秒の時間。それが、御先祖様達がお前に託した可能性だ」


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