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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
二章 前兆
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続、屋上にて

「ふむふむ、夢の中の男が、実は近明高校の制服を着てたってことに気が付いた、と」

 例の場所に着き、僕の話を聞き終えた星河はそう呟く。

 とりあえず、今日見た夢のことは伏せ、昨日の夢について気が付いたことがあるということにしておいた。

 あんな現実離れした夢のことを話して、不必要に星河を心配させるのは良くないと思ったからだ。

「どうしてそんな重要なこと忘れてるのよ! それだったら十分あなたに関係ありそうじゃない!」

 と、星河は急に大声を上げる。

「ま、まぁまぁ。昨日は寝坊して遅刻しそうで、起きてすぐ他のこと考えちゃってたからさー。しょーがない…じゃん?」

 そう星河をなだめ、僕は話を続ける。

「それで、その男を何処かで見たことがあるような気がして…。それが星河のクラスだったような気がしてさ」

「で、さっきうちのクラス覗いてたわけね。いたの?」

「いや、まだあまり人も居なかったしね」

「そうよね。そういえば、名前とか呼ばれてなかったの? お姉さんがその男のこと呼んでたんでしょ? 名前が分かれば、うちのクラスに居るかどうか私が分かるじゃない」

 そう言われればそうだ。確か、男の名前が呼ばれていたような気がする。

 これは本当に忘れていたな…。

「そうだ…確か――し……」

 口に出しながら記憶を辿る。

 けれども、なかなか思い出せない。

「し?」

「えーっと、し何とかだったような気がするんだけど」

「し何とかじゃ分からないわよ!」

 再び大声を出す星河。

 そりゃそうだ。それじゃあ分からないよなぁ、と改めて記憶の糸を手繰り寄せる。

「えーと、し、しい、しる、しむ…違うな。しが…じゃないし、し、し、しらん!」


ばこん!


 後頭部に鈍い痛み。

「真面目に考えなさいよ! 真面目に!」

 こぶしを握り締めながらの星河の言葉に、

「これでも真面目に考えてるんだよ! グーで殴るこたぁないだろ!」

 と思わず叫び返す。

 その自分の言葉で気が付く。

「そうだ! ぐだよ!」

 その叫びに星河は顔をしかめる。

「んん?」

「いや、だから、しぐ……何とか」

 再びこぶしを振り下ろそうとする星河を必死で押し止め、何とか思い出そうとする。

「しぐ、しぐ、しぐ…シグマ!」


ばちこーん。


 思いっ切り後頭部を叩かれ、

「どこにそんな、世界を陰ながら守る秘密組織の隊員のコードネームみたいな名前の日本人が居るってのよ! 有り得ないでしょ!」

 と星河の怒声が降って来る。

 お前のツッコミの方が有り得ないだろ! 何だよ、そのやけに具体的な例えは!

 と思ったが口にはせず、痛む頭を押さえつつ、

「頭叩くなよ。尚更分からなくなるだろ」

 とだけ言い返す。

 それに対して、星河はぎろりと視線を向けてくる。

「しぐ…ねぇ。そういえば、うちのクラスに時雨しぐれ君っていたわね」

「それだ!」

 やっと思い出す。そういえば夢の中の女性がそんな風に呼んでいたっけ。

「あ、当たってるんだ? 時雨っていうと、そうそうある名前じゃないと思うし……。それに彼、ええっと、青木時雨あおきしぐれって言うんだけど、転校生だしね。怪しいわね」

「転校生?」

「そ、転校生。この四月からこの学校に転校してきたのよ。しかも彼、あんまり人を寄せ付けない感じで、いつも一人でいるのよねぇ。なんだか秘密がありそうじゃない?」

 目を輝かせて僕の顔をのぞき込んでくる星河。

 秘密という言葉に、聖河は一体何を期待しているんだろうか。

 確かに夢に出てきた男なら秘密があるのは間違いないだろう。なにしろ、不気味な怪物達に襲われていて、不思議な術を使っていたのだから。

 けれども、そのことは星河にはまだ話していない。秘密と言っても、まさかそんなことを予想などしていないだろう。

「ま、とにかく、本当にその人なのか見て確認してみないと」

「そうよね。でも彼、いつも始業ギリギリで来るから、まだ来てないんじゃないかなぁ」

 その言葉で、昨日の玄関での男が青木時雨だという期待は高まる。

「じゃぁ、一時間目が終わったら教室に見に行くよ。それなら確実にいるんだろ?」

「おっけー。じゃあそうしよう。決定、けってーい」

 そう言うと星河は立ち上がり、続いて僕も立ち上がる。

「じゃ、そろそろ時間だし、教室に戻るか」

 先に歩き出した星河を追いかけて、僕も歩き出した。



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