予知の力
「やれやれ。つまりだな、この予知の力は、成長と共に段々と強くなってくるんだよ。小さい子供の内に訓練したからって使いこなせる様なものじゃない。未来を見るには、それだけの経験と知識が必要だって事だな」
父さんはそこで足を止めると、僕の方を向く。
僕も足を止め、並んで歩きながら話していた形から、向き合って話す形となる。
「一輝、お前はその予知夢の力をどう思っている?」
「…どうって?」
質問の意味が良く分からない。どうって、予知夢は予知夢だ。現実に起こる事が夢に現れる――それが予知夢だ。
「夢に見た事を変えようと試した事は無いか? 夢とは違う未来を望んだ事は無いか?」
その問いで、父さんの言いたい事を理解する。
「ああ、あるよ。夢で未来を見る事が出来るって、そりゃあ、未来を変えられないかって当然思うよね。でも、無理だった。父さんも試した事があるって事だよね」
「ああそうだ。だが――」
「未来を変える事は出来なかったんでしょ? 幾ら成長して、遠くの未来まで夢に見る事が出来る様になったとしても」
父さんは頷き返す。
「つまり、お前はこう考えている訳だな。予知夢とは、決まった未来を先に知る能力だと」
すぐには応えず、僕は考える。父さんが何を言いたいのかを。
そして、それを予測しつつも僕は肯定の返事を返す。
「ああ、そうだよ」
今の僕には、そうとしか思えないから。
「だが、それは間違っている」
予想通りの返答に、自然と口の端が緩むのを感じる。
「未来が変えられるって事? 俺の代で、それが可能になるという事か?」
今までの情報をまとめれば、それが一番しっくりくる答えだ。
だが、父さんは肯定も否定もしない。
「まず、予知夢で見た未来は、何時確定されているんだと思う?」
未来が何時確定されるか、だって?
それは――あらかじめ…じゃないのか?
始めから未来は決まっている。この世界で起こる事は確定している。いわゆる、運命というやつだ。
運命によって、この世の出来事は決まっている。
そうじゃないのか?
僕が答えられずにいると、父さんの問いが続く。
「じゃあ逆に、予知夢に見ていない未来は確定していないのか?」
運命というものがあるのだとしたら、予知夢に見ていない未来というのは、僕が何が起こるのか知らないだけで、確定している事だと考えられる。
ただそれは、僕の視点から見れば確定していない未来だと言う事は出来るが…。
僕はまだ、答える事が出来ない。
「じゃあ、ここで、一つの例え話だ。今ここで、俺は左手か右手、どっちかの手を上に上げようと思う」
そう言いながら、父さんは右手を上げる。
「今、俺が右手を上げた時点で『右手を上げる』という未来――さっき質問をした時から見ての未来が確定した訳だ。左手でも同じだ。俺が上げた時点で確定する。それが、未来が確定するという事だ」
何というか…例え話だと言いつつ、全く分かり易くないぞ。
一体父さんは何が言いたいのか。
未来だとか、確定だとかごちゃごちゃ考えていると頭が痛くなってくる。
「何が言いたいのか良く分からないんだけれども……未来は確定していないと言いたいのか?」
結局僕が答えられたのは、そんな問い掛けの言葉。
つまりは、父さんはあらかじめ決まっているという運命というのを否定したいのだろうか。
でも、だとしたら――変えられない予知夢の未来というのはどういう事なんだ。
「そう、未来は確定していない。未来を確定させているのは自分自身だ」
「そんな事は分かってるよ! 手を上げようとすれば上げるという未来が確定する。そんなのは言われるまでも無い事実だ。でも、だったら、予知夢は何なんだよ? どんなに変えようとしても変わらない未来があるじゃないか! 未来は既に確定してしまっている。それは俺には否定できない!」
僕の叫びに、父さんは変わらぬ落ち着いた声で応える。
「さっきの質問、少し言い変えよう。予知夢で見た未来は、何時、お前自身が、確定させているんだ? と」
僕が確定させている、だって!?
それは、つまり――
「予知夢は、未来を確定させる能力だって言いたいのか…?」




