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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
八章 雲之遺跡
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果たすべき使命

 すると、背後から急に太い声が降って来る。

「だがそれは、簡単な事じゃ無い」

 振り返ると、そこには探していた人物が立っていた。

「父さん…何時の間に?」

 だが、父さんは僕の質問には答えずにゆっくりと歩いて来ると、僕達が座る横の地面に腰を下ろした。

 そして、口を開く。

「月夜が張った結界――いや、クレセントムーンの継承者、セイト家の者達がそれぞれ張って来た結界と言った方が良いか」

 セイト家とは…また知らない単語が出て来たな。

 と、父さんは今度は僕が疑問を口に出す前に、その問いを視線からくみ取る。

「ああ、セイトというのはクレセントムーンの継承者の元々の家名だ。俺や一輝の家名はクラインズとなるし――聖風家の方は聞いた事があるだろ?」

 父さんが話を振ると、来夢は頷き、

「はい。聖風家はステアムと言います。私の名前は、ライム=ステアムというのがシュトゥルー式の名前という事になりますね」

 礼儀正しくそう答えた。

 そう言えば、夢の中で時雨がそんな名乗りをしていた様な気がする。

 しかし、話し方が変わり過ぎて調子が狂うな……などという僕の内心はお構い無く、父さんの話が続く。

「セイト家の結界、それは、クレセントムーンの力を全て出し切ったものだった。そうでなければ、ゲートを封印する元の結界を上回る程の結界など張れないんだ。だが、セイト家に伝わるのはクレセントムーンの片割れだけだった。という事は、その足りない部分を補うために――」

「命を削って来たっていう事!?」

 僕の声は、自然と大きくなってしまっていた。

 まさか、星河の母親――そして、星河の寿命の秘密がこんな所で明かされるとは。

「その通りだ。セイト家は代々、その寿命を削って結界を守り続けてきたんだ」

 そこまでして、アンビシュンの到来に備えていたなんて……。

「どうした? 言葉が出ないか? ……ふっ、当然だな。俺も若い時に通って来た道だ。そして、思い知ったか? 御先祖様達が、俺達に託して来たものの重さを」

 父さんは夢の中で言っていた。

 御先祖様達は、絶対にアンビシュンを倒すために、後の世代に希望を託したと。

 そこまでして、アンビシュンというのは打倒しなければならない相手だというのか…?

 僕が驚きに言葉を発せずにいると、父さんはにやりと笑いを浮かべた後、話し出す。

「クレセントムーンが守りの要であるならば、イーストステアムとクラウドルインズが攻めの要だ。時雨君の方は、流石と言うべきか。その力をほぼ出し切る事が出来る様だな。だが、それだけでは足りない。クラウドルインズの力――それこそが俺達の切り札だ。そして、それは一輝――お前が使いこなさなくてはならない」

 父さんは真っ直ぐに僕の目を見つめてくる。

 クラウドルインズの力を使いこなす――そのための修行をこれからここですると、父さんは言いたいのだろう。

 だが、その前に確認しておきたい事がある。

「今の話が本当だとしたら、クレセントムーンの本当の力を取り戻した星河は、もう寿命が縮むという事は無い?」

「ああ、そうだ。だからこそ、星河ちゃんにあれを予定よりも早く渡したんだ」

 その言葉に、僕はほっと胸を撫で下ろす。

 僕自身の事で無いにしても、やはり幼馴染の星河が若くして死んでしまうという現実は、大きな心の重りとして僕の心にのしかかっていたのだ。

 それを下ろす事が出来て――いや、星河が長生き出来るという事が、本当に良かった。

「私の中にあったクレセントムーンの欠片は、既に星河さんの元に返したから、今頃星河さんは、その全ての力を出し切れるように特訓をしていると思うよ」

 来夢が僕の耳元でそう囁いた。

「そ、そうなんだ。ありがとう」

 耳元の声にどきりと胸が鳴ったが、それを表に出さない様に勤めてそう返事をするが、にやにやといやらしい笑みを浮かべる父さんの顔が目に入って来る。

「まぁ、そんなところで、一輝は色々と忙しい様だが? そろそろ特訓に移っても良いかな?」

 何か言いたげな視線を送りながらの父さんの言葉に、僕は応える。

「ああ、良いけど…ここを攻めて来るっていうアンビシュンはほっといていいのかよ?」

「それはお前が今考える必要は無い。お前はまずは修行に専念しろ。お前が力を使えるようにならなければ、ここを守りきれたとしても何の意味も無いからな」

「分かったよ。それでどうすれば?」

 僕が少し投げやりにそう問い掛けると、しかし、父さんは僕では無く来夢へと向けて口を開く。

「すまないが、来夢ちゃん。こいつと二人で話がしたいんで、ここで一人で待っててくれるかな?」

「あ、はい。分かりました、お義父様」

 その来夢の返答を聞くと、父さんは立ち上り、僕に付いて来いと手でジェスチャーして、ゆっくりと歩き出した。


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