丘の上で
どうやらそこは、小高い丘の上の様だった。
周囲から少し高くなっているので、周りを見下ろす事で、少し遠くまで見渡す事が出来る。
街の明かりは遠く、住宅などの建物は近くには無い様だ。少し郊外に出た所なのだろうか…?
僕達の居るすぐ後ろ、丘の中心部分には大きな樹木が一本立っている。
暗くてすぐには判断出来なかったが、これは杉の木だろうか? となると、聖風家のお屋敷や善恩寺にあったものと同じ位の大きさの杉の木だという事になる。
そこで思い当たる。
「もしかして、その杉の木が最後の…?」
僕らの頭の上を完全に覆って、夜空を見えなくしているその緑色の傘を見上げながらそう問い掛ける。
「流石、かずくん。ここは、シュトゥルーからのゲートを封印する結界の最後の起点。そして、聖風学園中等部の裏庭にある小さな丘の上よ」
聖風学園中等部? つまり未鈴の通う学校の敷地内って事か?
ということは、未鈴が今日学校休みになったのは、万が一に備えてではなくて、しっかりとした根拠の上の決定だったのか。
「そんな所に――」
「そうね。ふふ、かずくんの御先祖様達も中々思慮深い人達だったみたいね。まさか、お互いに場所を教え合わないと言いながら、相手の所有地内に起点を作っているなんてね」
確かに。灯台元暗しというやつだろうか。
けれども、それなら、
「時雨は、今晩にもアンビシュンは最後の起点を攻めるだろうって言っていた様な気がするが…ここに居て大丈夫なのか?」
「それも時雨が話さなかった? ここには強力な結界が張ってあるって」
それも聞いた。だが、言いたいのはそういう事では無い。
「いや、そうじゃなくて――外から攻められている状態で、中で修業とか出来るものなのかなーっと」
「でも、結界が破られないのだったら、ここ以上に安全な所は無いはずだよ?」
確かにそうだ。来夢の言う通り。
「そういう事になるのか」
この僕と来夢の考えの違いは、僕がここに張られているという結界の存在を、良く分かっていないという事からくるのだろう。
来夢からは、結界に対する絶対の信頼が感じられる。来夢は、この結界がどんなものなのかはっきりと分かっているのだろうか?
僕が問い掛けるよりも早く、来夢は口を開いた。
「この起点に対する結界は、星河さんのお母さんが張ったものなんだって」
「え?」
まさかここで、月夜さんの話になるとは思わなかった。だが、それは一体…?
「元々、ゲートに対する結界を張った能力は、クレセントムーンの継承者の能力だった。つまり、星河さんのご先祖様ね。そして、その四つの起点を二つずつに分けて守る事になった」
「クレセントムーンってのは、結界を張るのが力の一部なのか?」
僕の問いに、来夢は頷く。
「そうだね。欠片とはいえ、その力を使っていたんだから、クレセントムーンの事は良く知ってるよ。クレセントムーンの力は、癒しや守りに特化したもの。破壊とかも全く出来ないって訳じゃないんだけどね」
癒しや守り、か。
それに対して、時雨のイーストステアーズは攻撃――破壊や殺傷に特化した能力が使えるという事なのだろうか。
少なくとも、予知夢で見た範囲ではそんな印象を受ける。
と、別の方向に行ってしまった思考を、来夢の話の方向へと連れ戻す。
「――結界を張るという事に一番適していたのは、クレセントムーンの継承者だったって事だね。そして、その力は、代々受け継がれている――というか、代を重ねる事でより強くなっていってるって話だよ」
夢の中で父さん達が話していた。結界を張る能力もやはり、強化されていたということか。
「結界っていうのは、時間が立つ事でその効力は徐々に弱まっていっちゃう。けれども、いくら力が強まっているといっても、ゲートを塞ぐ結界を張り直す事はリスクが大きかった。何でかっていうと、張り直しには一度結界を解かなければいけないから。つまり、解いて張り直すまでの間にアンビシュンがゲートを通って攻めてきたら、元も子もないっていう事だね」
今までだれも攻めて来なかったのが今になって表れたというのは、時間で結界が弱まったという事が原因なのか。
「そこで、クレセントムーンの継承者が考え付いたのは、結界の起点を守るためにより強い結界を張るという事。そうすれば、代を追う毎に、より強い結界を張り直す事が出来るという事ね」
「なるほど。だから今ある結界は、星河のお母さんが張ったという事になるのか」




