遅れて来た者
扉が開かれ、室内へと入って来たのは三人だった。
一人目はスーツ姿の中年の男性。口ひげとあごひげをたくわえていて、髪型は整髪料で固められた、いわゆるリーゼントと言われる髪型だ。
不良中年とでも言えそうな少し危ない雰囲気の男性だが、整った顔立ちをしているお陰で、ダンディーという言葉が似合うような魅力のある風貌だ。
続いて姿を見せたのは、先の男性と同じ位の年齢に見えるショートカットの女性だ。
同じ様にスーツ姿だけれども、男性とは反対で、平凡で何処にでも居る様な容姿で、何とも特徴の無い捉えようの無い印象を受ける。
濃い印象の男性の後ろに居るためか、余計その存在感の無さが際立って見えるのかもしれない。
そして、最後に後ろ手で扉を閉めながら現れた男性は、僕の良く知る人物だった。
同じ様に中年の男性であるが、ジーパンにティーシャツというずっとラフな格好。そのシャツの袖から現れるのは筋肉質な太い腕だ。
短く刈り上げられた髪型で、ねじり鉢巻きをして前掛けでもしていれば、酒屋の店主という言葉が似合うだろう格好だ。
というか、実際、如月酒店の店主だ。つまり、僕の父親であった。
三人が部屋に入り終わった所で、先頭の男性が口を開いた。
「いよう、若人共! 悩んでおるかね!」
と、そこでやっと三人の来訪者に気が付いたのか、驚きの成分を多分に含んだ時雨の声が響く。
「お、親父!? それに母さんも!?」
「お父様、お母様?」
続く来夢の言葉にも驚きの色がある。
最後の星河の声もやはり、驚きの言葉だった。
「礼也おじさん? 如何してここに?」
三人の来訪者達は部屋の中心、机の周りまで歩いて進んでいく。
視界もそれに合わせて代わり、始めに見ていた場面と同じ様な視界となる。
遠慮無く三人は椅子に座り、時雨を除く五人が机を囲んで座る事となる。
三人が座るために席を移動したため、来夢の顔が見える様になったが、中年三人はこちらに背中を向けた形だ。
座り終えて始めに口を開いたのは僕の父さんだった。
「如何してここに居るのか、という問いの答えは、この街で起こっている事件を解決するため、でいいかな?」
続くのはひげの中年の声。
「ふっ、それに違いないな。だが、もっと具体的に言うとするなら、若人の成長を見に来たと言った方が良いな」
その言葉に、少し不機嫌な時雨の声が続く。
「つまり、親父達は俺達に任せて、高見の見物をしてたって訳か」
それは、力があり、何が起こっているのかが分かっていながら何もしなかった者に対する非難の言葉。
「確かに俺達が最初からきちんと対応していたら、屋敷が燃やされることも、風子の命が失われることも無かっただろう。だが、お前達の成長無くして、この問題が解決することはない。そうしなければ、今以上の被害がいずれ出ることになるはずだ。絶対にな」
時雨の父親はそう断言する。
その自信はどこから来るのだろうか。
続くのは父さんの言葉。
「君は、どうして御先祖様達が、シュトゥルーに帰ろうとしなかったのか考えたことはあるかい?」
「え? それは…こちらの世界に慣れて帰る気が無くなったとか…力に自信が無かったからとかーー」
自信が無さそうな時雨の返答に、父さんは強い口調で応える。
「それは違う。アンビシュンを絶対に倒す為に帰らなかったんだ」
何だか言っていることが矛盾している様な…。
それは時雨も同じ様に感じたようで、
「言っている意味が分からないのですが」
僕の疑問を代弁してくれる。
「つまり、自分自身ではアンビシュンに勝つことが出来ないと判断した御先祖様は、後の世代にその希望を託したんだ。世代を重ねる事で、力を増すという希望をね」
父さんの返答に、時雨の父親の言葉が続く。
「元々、クラウドルインズもクレセントムーンもイーストステアーズも、同じ血筋の者が継承者となる決まりは無かった。だが、この世界に来て、同じ血筋の者が継承者として継承し続けることで、三つの至宝と継承者達の結び付きを強化していったのだ。より強い力を使えるようにな」
「そして、俺達の計算では、お前達の代でアンビシュンを倒せるだけの力が使える様になると予測している」
そう言って、父さんが締めくくった。




