無意識の内に
普段であれば、目覚めたときの感覚で、初めて気が付くのだ。
であれば、今の僕は目が覚めているのか?
これが現実だというのか? そんな訳無いだろう。
では一体?
そんなことを考えている内に、視界は再び暗転し、また別の場面が、目の前に広がっていた。
そこは、地下室だった。
僕が先程まで居たはずの、聖風家の地下に隠された部屋。
そして、今までの二場面と違って、誰かの視点と一緒になって見えているのではなく、映画の一場面の様に周囲の様子が視界に納められている。
中心の机を囲む椅子に座る人影が二つ。奥のソファーの横に立っている人影が一つ見える。
椅子に座るのは星河と来夢だが、来夢はこちらに背を向ける格好なので顔は見えない。
奥に立つのが時雨だ。
星河の声が響く。
「来夢さんの言い分は分かりました。一輝と昔からの知り合いだって」
「ただの知り合いじゃないですよ。結婚の約束もした仲なんですから、相思相愛の仲です」
来夢の返答に、ピクピクと星河の眉根が動く。
「その話もちゃんと聞きましたから、何度も言わなくて結構です!」
怒りを抑えての声だとすぐに分かった。
しかし、いつの間にそんな話をしたんだろうか。結婚の約束なんて……全く記憶にない。
「いいから話を先に進めてくれ。一輝の今の状態に心当たりがあるって話だっただろ?」
このまま二人に任せていては、話があらぬ方向へ進んでいってしまうと思ったのだろう。時雨がそう口を挟んできた。
「そうだったわね。それで、一輝なんだけど、急に倒れるようにして眠り込んじゃって、全然目を覚ます様子がないよね?」
言いながら、星河は後ろを振り向く。
そこで、よく見るとソファーの上には先程までとは違う人物、おそらく、というか間違いなく、僕が横になっているということに気が付く。
「そうだな。これは眠っているというよりは、病気や怪我などで意識を失っているんじゃないかと思うところだぜ?」
「この状態の一輝を、何度か見たことがあるわ。それは、一輝が予知夢を見ているとき」
その言葉に、時雨は目を見開く。
「予知夢を見るときってのはあんな突然なのか。そりゃあ、普通の夢だとは思わないだろうな」
それに対して、星河はかぶりを振る。
「ううん、いつもは普通に寝ている間に見ていたようよ。今回は特別。余程、すぐにでも見ておかなきゃいけない予知夢があったのか…それとも…」
「それとも?」
言い淀む星河に、時雨が先を促す。
「いえ、何でもないわ。とにかく私は、一輝はこのまま寝かせておけば良いと思うわ。夢を見終われば自然と目が覚めるから」
「なるほどね」
時雨は思案する素振りを見せる。
と、そこで、来夢が口を開く。
「星河さんの言おうとしたこと、分かります」
その声は、私の方が良く知っているんだと言いたげな、挑むような口調だ。
「え?」
すると、星河は全くの予想外だったと言うような間の抜けた声を上げる。
そんな様子にお構いなく、来夢の言葉が続く。
「つまり、かずくんの予知夢がクラウドルインズの力に因るものだと考えると、今、急にこんな事になっている事に説明がつくということです。かずくんは、今、クラウドルインズの欠片は持っていないーーこれは確かです。何故なら、時雨は残りの欠片を持っていて、それが全く反応を見せていないから」
星河が時雨へと視線を送ると、頷きが返ってくる。
「けれども、かずくんがクラウドルインズの継承者の家系であるならば、時雨の持つ欠片に何らかの影響を受けてもおかしくは無いです。そして、その結果、かずくんの持つ予知夢の能力が活性化されたーーこう考えられるのではないでしょうか」
急に倒れるように眠ってしまった理由か。
もしかしたらそんな事があるのかもしれないけれども、自分自身でもさっぱり分からないのだ。
けれどももし、予知夢の力が増したのだとしたらーー夢の中で夢だと自覚している事に説明がつく。
そんなことを考えていると、急に視点が動く。
地下室の三人を視界に納めた状態から、一気に三人が外れ、中心には反対の壁にあったこの部屋の入り口が映し出される。
そして「ガチャリ」と、ドアノブが回される音が鳴った。




