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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
八章 雲之遺跡
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夢現

   八章   雲之遺跡



――したの、一輝?」

 気が付くと、目の前に星河の顔があった。

 だが、その顔は見慣れた顔とは少し違っていた。

 何処となく大人びている様な――そうだ、化粧をしているんだ。

 見慣れたものよりもはっきりしているアイライン。白い頬。ピンク色の唇。

 そして、何より雰囲気を変えているのは、後ろでは無く横にまとめて垂らされている長い髪。

――大事な話があるんだ――

 声が響く。

 それは、聞き慣れたものである様な、耳を塞ぎたくなる様な、そんな声。

 どうやら星河と声の主は向き合って抱き合っている様だ。

 僕の視点は、その星河と向き合う人物の視点と完全に一致している。

「大事な話?」

 星河が聞き返す。

 すると、僕と視点を共有する人物は胸元のポケットへと手を入れ、何か小さな箱の様な物を取り出す。

 それを星河の方に向け、ぱかっと開ける。

――星河、僕と結婚してくれ――

 すると、目の前の星河の目尻から、じんわりと涙が溢れ出してくる。

――せ、星河?――

 慌てた様な響きの声。

 すると、目の前の星河は自分の指で目の下を拭うと、首を横に振った。

「ううん、違うの。嬉しくって。うん、ありがとう、一輝」

 星河はそう言うと、目の前の人物に、それまで以上に力を込めてぎゅっと抱き付く。

 そして、僕は理解する。

 いや、最初に声を聞いた時から分かっていた。分かっていたけどその声を認めたくなかったのだ。

 僕と視界を共有しているこの人物は、未来の僕なのだと。

 すると、ふっと視界が暗転する。

 そして、次の瞬間、目の前に広がる景色は一転していた。


「かずくん、どうしたの?」

 目の前の、というか、僕の上に馬乗りになっている人物が問い掛けてくる。

 一瞬、目が覚めたのかと思ったが違っていた。

 何故なら、目の前の人物はその漆黒の髪を肩の高さで切り揃えていて、また、先程の星河と同じ様にうっすらと化粧をしていた。

 そして、何よりも目を引くのは、僕の瞳を真っ直ぐと見つめてくる二つの眼。

 閉じられる事無くしっかりと見開かれたそこには、目の前の景色がしっかりと映っていた。

――ふふっ、来夢には何時も押し倒されてばっかりだなと思って――

 笑いを漏らす、僕と視界を共通する人物。

 すると、来夢は上体を倒し、頬へと手を伸ばしてくる。

「だって、会えるの久しぶりだったから。待ち切れなかったんだもん」

 目の前に迫った来夢の顔は、にっこりと微笑みを形作る。

 そのまま顔が近付き続けると、急に視界が暗くなる。

 それが、僕が視界を共有する人物のまぶたが閉じられたせいだと気が付いたのは、再び視界が明るくなって、離れて行く来夢の顔を視界に収めた後だ。

 何故かというと、視界を共有しているだけで他の感覚は全く分からないからだ。

 と、視界が動く。

 押し倒されていた人物が上体を起こしたのだ。

 座って向き合う形となる二人。そこで声が発せられる。

――来夢、これ、受け取ってくれ――

 そう言って、懐から何か見覚えのある小箱を取り出す視界を共有する人物。

「かずくん、これ――」

 箱が開けられ、再び響く声。

――来夢、僕と結婚してくれ――

「うれしい!!」

 間髪入れずの来夢の返答とともに、再び押し倒されて視界が動く。


 一体この予知夢はどういう事なんだ?

 僕は未来で、二人もの女性にプロポーズするとでも言うのか?

 と、そこで気が付く。

 おかしい、と。

 何故なら、僕は今まで、予知夢の中で自分が予知夢を見ているのだと感じた事は一度も無かったのだから。



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