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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
七章 伝承
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突然の再会


「うわぁっ!」

 突然の出来事に耐え切れず、僕はそのまま後ろに倒れ込む。

 コンクリートの床に背中や後頭部を思いっきり打ちつけ、痛みが走る。

「いつつつつ」

 痛む後頭部をさすりながら目を空けると、目の前には僕の上に馬乗りになっている時雨姉の姿が。

「かずくん! 会いたかった!」

 倒れ込む様にして僕に抱き付いて来る時雨姉。

 目の前には黒髪に覆われた少女の頭があり、そこから何とも言えない甘い香りがしてくる。

「うえっ、あのっ、その……」

 全くの予想外の出来事に、頭が全く回らない。

 一体何が起きているのか?

 かずくんって、小さな頃はそう呼んでいた友達もいたが、最近では聞かなくなった呼び名だ。

 僕の事で、合っているんだよな?

 どくんどくんと、心臓が早鐘の様に鳴り響く。

 数十秒の沈黙の後、上から声が降ってきた。

「ね、姉さん? え、えっと…一輝とはどういう関係…なんだ?」

 そういえば、この部屋には他に二人の人間が居たのだった。

 そんな事、すっかり頭の中から抜け落ちてしまっていた。

 目の前の頭が動く。

「時雨、私はかずくんとは幼馴染なのよ」

 後ろを振り向きながらも、腕はしっかりと僕の背中に回されたままだ。

 そして、彼女は僕の方へと顔を向けると、

「ね?」

 と言って微笑む。

 目が見えないと言っていた通りまぶたは閉じられているが、時雨が美男子であるのと同じ様に、彼女も美しい顔立ちだ。

 その顔で目の前で微笑まれて、平気で居られる男子が居るだろうか。

 どくんっと、心音が一層高なるのを感じる。

 しかし、続く声に頭に上った熱は一気に冷める。

「で、一輝? 一体どういう事なのかしら?」

 底冷えする様な声とは、正にこの事か。

 今まで聞いた事の無い星河の声が、辺りに響いた。

 星河の立っている方向は分かる。だが、その方向へと視線を向ける事はどうしても出来ない。

「えと、あの、その、全く、全く意味が分からないんだけど…」

 なんとかそう言葉を絞り出すと、

「とりあえず、さっさと離れなさい! いつまでそうしてんの!!」

 目の前の少女の襟首がつかまれ、その身体が起き上がっていく。

 だが、その少女は全くその腕を離す気配が無い。

 結果、僕とその少女は座ったまま抱き合っているという格好に。

 良く二人分の体を持ち上げたな、という感想はともかく、視界の中にぎろりと鋭い視線を向ける星河の顔が飛び込んでくる。

「えと、あの…そろそろ離れてくれると…助かるかな」

 目の前の少女に向けそう言うが、その言葉を向けられた本人は、小さな子供がイヤイヤをする様にその長い黒髪を振り回して応える。

「いやよ! やっとかずくんと再会出来たんだから!」

 冷たく突き刺さる視線を感じながら、僕は時雨へと助けを求める。

「ね、姉さん…。一輝は逃げたりしないからさ、とりあえず、落ち付いて話そうよ」

 姉の腕を引っ張ろうとする時雨に対し、僕の背中に回される腕の力は痛い位にその力を増す。先程まで、衰弱して眠っていた人だとは思えない程の力だ。

「あ、あのさ、幼馴染って言ってたけど、俺には覚えが無いんだけれども…」

 恐る恐るそう口にすると、時雨姉の身体が瞬時に離れる。と言っても、背中に回っていた手が肩の上に置かれ、体の間に腕の長さだけの距離が出来ただけだが。

 そして、信じられないといった表情で口を開く。

「かずくん? 私、来夢よ? 昔良く一緒に遊んでたでしょ?」

 らいむ…その名前は昼間、妹から聞いている。

 だが、それ以上の覚えは無い。昔良く遊んでいた? 一体、何時、何処で…?



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