見覚え
がばっ。
ベッドから起き上がる。
枕元の時計を見ると、時刻はまだ午前五時を過ぎたばかり。起きるにしてはまだ早すぎる時間だ。
だが、
「今の夢は……。まさか二日連続で見るなんて…」
予知夢である。二日連続で見るなんて初めてのことだが、この目覚めの感覚、予知夢を見た時のいつもの感覚である。
しかし――
「いくらなんでも現実離れしすぎている…」
真っ黒な影の化け物やら、男の使う不思議な術やら。
普通では絶対に考えられない事で、アニメや漫画の中の出来事だ。いっそ、ただの夢であった方が納得出来る。
でも違う。これは予知夢だと、はっきりとした思考と空腹感が告げている。
しかし、あれが本当に予知夢だとして、現実だとして、それが一体僕の未来にどう影響するというのだろうか。
夢に出てきたあの坊さん……昨日見た托鉢僧と同じ格好ではあったが、同一人物だという自信はない。
暗闇ではっきりとは見えなかったし、編み笠を目深に被っていたため、その顔もほとんど見えていなかったからだ。
もちろん、昨日の托鉢僧の声は聞いていないので、声から予想することも出来ない。
だが、もう一方の男。
制服姿のあの男の方は、昨日の夢にも出てきた男に間違いなかった。
そして、現実にその男に心当たりがあった。昨日は気が付かなかったが、今日の夢で確信した。
長髪を後ろで束ねている姿。それに、近明高校の制服。
昨日の朝、玄関で出会ったあの男だ。校門を走り抜け、下駄箱の脇で息を整えている時に話しかけてきたあの――
本日も昨日と同じように雲一つ無い晴天。いわゆる、五月晴れというやつだ。
まだ朝早いというのに、日光を浴びて歩いていると汗が噴き出してくる。
とは言うものの、いつも通りの三十分前の登校。昨日の全力疾走とは違って汗だくになるという程ではない。
そうして僕は、始業のチャイムの時間まで余裕をもって学校に到着する。
教室に着き鞄を置くと、僕はすぐに二年A組の教室へと向かった。
昨日、下駄箱で見かけた男……確かA組の所で履き替えていたはずだ。
開けっ放しにされていた入り口から中の様子をうかがう。
教室にはまだ十人程の生徒しかおらず、目的の男子生徒は見当たらない。
昨日、見かけたのは遅刻ぎりぎりの時間だった。いつも同じ様な時間に登校しているのだとしたら、教室に居ないのは当然なのかもしれない。
一度教室に戻ろうと、後ろを振り向いたその時、
「あれ、一輝? うちのクラスに何の用?」
今登校して来たのであろう女生徒が声を掛けてくる。
「あ、星河。おはよう」
とりあえず挨拶をしてから、考える。
いくら星河は予知夢の事を知っているといっても、あの夢の内容を話して良いものだろうか、と。
「うん、おはよう。で、どうしたの? 変な顔しちゃって」
考え込んでいて変な顔をしてしまっていたのか。
ええい、悩んでいてもしょうがない。
星河もA組だ。話を聞いてもらった方が話は早いに違いない。
僕は周りの目を気にしつつ、小声で答える。
「ちょっと昨日の話の続きしたいんだけど、良いかな?」
何の話かはすぐに分かったようで、星河はうんうんと頷くと、
「分かった。じゃちょっと荷物置いてくるから待ってて」
と、教室に入って行く。
そして、すぐに戻ってくると、
「じゃ、行こっか」
そう言うと星河は僕の腕を引っ張って、屋上へと向かって歩き出した。