親は何処
と、ここでとある疑問が湧く。
と言うか、何故気が付かなかったのか。
「そういえば、時雨の両親はどうしているんだ? 屋敷がこんな事になっても、子供二人をそのままにしているのか?」
「そう言えばそうよね。家系に関わるこんな重大な事件が起こっていて――ニュースだと仕事で家を空けていたって報道されてたと思うけど、一日経っても戻って来ないって、一体何をしているの?」
僕と星河、続け様の質問に時雨はお手上げと言った感じで両手の平を上げる。
「それが、分かんねーんだよ。行方不明って奴だ」
「へっ!? それって何時からだ?」
予想外の答えに、驚き問い返す。
「最初は仕事で家空けてるだけかと思ってたからな…正確な所は分からん。だが、三月入った位からずっと家を空けているのは確かだ。今にして思えば、この状況を察して何処かに行ったのかもしれないな」
「えぇ? 子供を残して逃げ出したって事?」
今度のは星河の疑問。
「ああ、そういう意味じゃ無いぜ。誤解しないでくれ。裏で何か動いてるんじゃないかって事だ。俺達姉弟は親から色々と教えて貰っているが…おそらく、まだ全ては教わっていないと思っている」
「ああ、なるほど。そういう意味か」
「びっくりしたよー、もう」
僕も星河もひとまず安心する。
ともあれ、そういう事であれば聖風家の方もまだ何か隠された情報を握っているという事か。
結界が破られそうになっているこの状況でも姿を見せない両親は、果たして何をしているのか…。
時間が足りずに、まだ戻って来られないのか。
はたまた、残りの起点の強力な結界の存在を知っていて、それに絶対の自信を持っているから余裕をもって行動しているのか。
いずれにせよ、行方の分からない者を頼りにする事は出来ない。
まず最初に、居場所の分かっている方に行くべきだ。
「まぁ、分からないなら今は置いておくとして、まずは、うちの親の方に当たってみるのが良いか。少なくとも、夜なら家に居るのは確かだ」
「私の所も、両親は家に居るはずよ」
僕達の言葉に、時雨が頷き返す。
「ああ。やるべき事はそれだな。後は、星河さんはクレセントムーンの扱いを覚えるって事だ」
「とりあえず、そろそろ夕飯の時間になるから家に帰るか連絡を取りたいんだけど…」
言いながら、ズボンのポケットから携帯を取り出す。
案の定、圏外だった。
「ここは流石に携帯の電波までは対応してないからな。外に出て電話する位なら、今日の所はこれで解散って事にした方が良いな。家に帰って親から聞ける話があるなら、それを聞いてから明日の事は考えた方が良いし」
そう言いながら時雨も自分の携帯を取り出し、話を続ける。
「一応、番号交換しておこうか。と言っても、俺がここにに居る間は出れないがな」
星河も同じく携帯を取り出す。
「それなら、メールでなら電波が繋がった時に見れるから良いんじゃないかな?」
星河の提案に僕達は頷き、それぞれ連絡先の交換をする。
「さーってと、んじゃここから出る準備をするかな。一応、外に出た時に見つからない様にする手順があるんだが――」
そう言って、時雨が準備を始めようとした時、
「ん、うん―――」
その背後から、小さな声が聞こえて来た。
「姉さん? 目が覚めた?」
振り向き、ソファーへと近寄る時雨。
僕達二人もそれに続いてソファーの近くまで行くと、先程まで横になっていた時雨の姉が、ソファーからゆっくりと体を起こした。
「そっか、私、地下室に来たんだったわ。それで、また眠くなって――」
「姉さん、まだ無理しないで横になっていて」
状況を確認している姉に対して、優しくそう促す時雨。
時雨の姉は、そのまま時雨の後ろに居る僕と星河へと視線を…というか顔を向ける。
そして、次の瞬間、状況は一変した。
「かずくん!!」
急に大声でそう叫んだ時雨姉は、
「!?!?」
立ち上がったかと思うと、迷い無く僕へと跳び付いて来た。




