俺達の出来る事
「絶対に? どういう事?」
あまりに自信満々の時雨の言葉に、星河が問い返す。
「場所の予測が付いた俺は、その場所に向かった。だが、起点周辺は結界に覆われてたんだ。それも、イーストステアーズの力が使える俺でさえ、全く壊す事の出来そうにない、な」
「結界の起点が、別の結界によって守られてたって事か?」
僕の問いに時雨が頷き返す。
「ああ。おそらく、クレセントムーンとクラウドルインズの家系のどちらかが張った結界だろうな。いつの時代から有るのかは分からないが」
「それで、行き詰ったアンビシュンは、時雨の招待に乗るって事か…」
「だろうな。結界を壊す方法を見つけられないのならば、そうする可能性が大きいと踏んで、俺はあの学校の招待状を用意した」
なるほど、それで夢の場面が実現した…いや、する訳か。
「時雨は、アンビシュンの奴らを全員倒せればいいと思っているんだろう? 勝算はあるのか?」
「そりゃな、もちろん。イーストステアーズの力を全部出し切る事が出来れば、こちらに来ている奴ら何て大したことは無いさ。周りを気にせず全力を出し切る事が出来る場所として、校庭を選んだんだからな」
夢の中で言っていた通りだ。だが、夢の終わりの事を考えると、時雨の思惑は別の所にあった様だったが…。
「その他に考えている事は無いのか?」
問いかける。
「その他って何だ? 倒し方まで正確に考えているかって事か?」
「いや、そうじゃない」
時雨の返答は予想通り。
やはり、今の時雨はまだその事を考えていないのだ。だとするならば、僕や星河のする事は自然と決まって来る。
眉根を寄せる時雨に、僕は言葉を続ける。
「夢の中で時雨は、時間稼ぎをしていたとアンビシュンの相手に向かって言っていた。つまり、他の目的もあったんだ。その目的っていうのが、結界の張り直しだ」
「そんな考えは無かったが――」
「そう、つまり、明日までに計画を変更してそうなるって事だ。そして、計画を変える要因となるのはクレセントムーンとクラウドルインズの継承者の存在」
僕はそう断定する。
「ああ、そういう事か」
最初に納得したのは星河だ。
僕の夢は必ず現実になる。それを分かっているからこその、素早い理解。
だが、時雨の方はすぐには納得出来ていない様子だ。
「どういう事だ? 二人は――結界を張る方法を知っているのか?」
その問いに僕は首を横に振る。
「いいや、知らないよ。話した通り、シュトゥルーに関する知識は、俺達はここに来るまで全く知らなかった。でも、俺の見た夢は必ず現実になる」
「必ず? 絶対にか?」
「そう、絶対にだ。夢の中で、夜の校庭、時雨とアンビシュンの者が対峙する場面で、時雨は結界が張り直されたと言っていた。つまり、時雨がアンビシュンを引き寄せている裏で誰かが結界を張り直したって事だ。ああ、もう一つ、言い忘れていたんだけど、夢に俺自身が出て来なくても、夢の内容は必ず俺の未来に関わっている。その事を考えると、結界を張り直すのに俺が関わっている可能性は高い」
俺の説明に、時雨はしばし考え込んでいる様な仕草を見せる。そして、口を開く。
「これから、結界を張る方法が分かるって事か」
それは問いかけでは無く、事実を確認する言葉。
「そうなるだろう。そして、それを知っている可能性が高いのは俺達の親という事になる」
星河の寿命の事を含め、父さん達が俺達に隠している事はまだまだ沢山ありそうだ。
そして、今、この様な状況になってその事が明かされるのだろう。
そもそも、おじさんが言っていたではないか。
元々、星河に真実を伝えるのはもっと先のはずだったと。それを、急に父さんの判断で早めたと。
それはつまり、アンビシュンが攻めて来て、今の様な状況になっている――それが原因じゃないだろうか。




