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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
七章 伝承
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出来る事は


 アルドが見える者だけとなると、当然シュトゥルーから来た自分達に向けてだとザルードには伝わったのか。

「他にも、昨日、時雨のお姉さんを家まで届けられたのも、予知夢で二人の関係を知っていたからだ」

「なるほどね。昨夜、二人が竹林の近くに居たってのは、ただの偶然じゃ無かったって事か」

 受け答えから、時雨は僕の言っている事を信じている様に感じられる。今までに無かった反応だ。

 やはり、時雨自身があんな力を使えるのだから、予知夢という普通じゃ考えられない事でもあっさりと受け入れられるんだろう。

「信じてくれるのか?」

 けれども、やはり声に出して確認せずにはいられなかった。今までの事を考えると。

「そうだな。普段ならそう簡単には信じられなかったと思うが…状況が状況だしな。クラウドルインズに関係した能力――そう考えた方が自然だ。そうじゃ無かったとしても、実際に、知らないはずの事を知っていた。信じるに値すると思うぜ」

 星河以外にも信じてくれる人が居た――それだけで、何だか胸の奥が温かくなる様な気がした。

「その、俺は時雨とアンビシュンが…一緒に居る所を夢で見たという事を踏まえて聞いて欲しい」

 僕はあえて「戦っていたと」いう言葉を避けて時雨へと語りかける。

「ん? 何だ?」

「俺は、星河にはなるべくこの件には関わって欲しくないと思っている。もちろん、相手の方が星河からクレセントムーンを奪おうとしてくるっていうのは分かっているけれども、こちらから進んで――というのは避けられないか? というか、直接アンビシュンの相手をするのは時雨一人で大丈夫だろう?」

 先程からの察しの良い時雨なら気が付くだろう。

 僕が星河に勘付かせない様に、あえて変わった言い回しをしている事に。

「ああ、そういう事か。そうだな、クレセントムーンの方を守っていてくれれば良いぜ。そうすれば、後は俺だけで決着を付ける事は出来る。というか、元々俺一人で何とかするつもりだったしな」

「一輝、それは――」

「ああ、もちろん俺もなるべく関わらない様にするよ。星河と一緒に居る」

 心配そうな星河の声に、先を読んで返答する。

「分かったよ」

 まだ少し、内心の不安が感じられる声だったが、星河から一応了解の返事がもらえた。

 僕は時雨へと向き直る。

「じゃあ、元々の計画を教えてくれないか? その上で、僕らに協力出来る事を考えたい。まず…、守る場所も分からず後が無いって状況で、呼び出しが明日の夜だってのはどういう事なんだ? 少なくともそれだけの時間の余裕はあるって事なのか?」

 そう、疑問なのはそこだ。僕はあの夢の出来事は今晩なんじゃないかと思っていた。

 何故なら、爆発跡に文字が込められているとは思いもしなかったから。

 ただ爆発があったという事自体がメッセージだとしたら、すぐ後の今日の夜しかあり得ないのだ。

 だが、さっきの時雨の言葉では明日の夜だと言っていた。

 アンビシュンの目的は結界の破壊と三つの至宝の奪取だ。結界が破壊された後ならともかく、現時点ではわざわざ敵の誘いにのる必要は無い。

 わざわざ時雨に会いに来る理由があるとすれば、アンビシュンはどうしても残りの起点を見つける事が出来ずにいて、時雨がその起点を知っているだろうと考えているという事。

「余裕がある…そうだな。確かに、俺は奴らが今日中に残りの起点を見つけ出せるとは思っていない。いや、正確にはたどり着けるとは思っていない、か」

「たどり着けない? それってつまり――」

「そう、残りの場所を俺は知っている」

 だが、さっきは聖風家が管理していた二つの起点以外は知らないと言っていた。また嘘なのか?

 そんな僕の疑惑の視線を感じ取ったのか、時雨はかぶりを振る。

「誤解しないでくれ。最近まで知らなかったのは本当だ。だが、起点四つはゲートを中心として配置されている。最初に壊された所は、もちろんすぐに確認した。それと聖風家管理の二か所を合わせれば、最後の一か所は自ずと場所は絞られてくるんだ。結果として、何処にあるのか俺一人で調べる事は出来た」

「え? っていう事は、三か所を壊し終えたシュトゥルーの奴らも場所はすぐ分かるんじゃ?」

 僕は驚き、問いかける。

 だが、答える時雨は落ち着いたものだ。

「ああ、その通りだ。おそらく奴らは、今晩中にも目的の場所を見つけるだろうな。だが、起点を壊す事は出来ない。絶対にな」


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