代償
「ありがとう、時雨。その件も、やっぱり父さんに確認してみる必要がありそうだな」
時雨にお礼を言いつつ、星河にもそう確認する。
「う、うんそうだね」
戸惑いがちに答える星河。
「ところで、そのクレセントムーンってのはどうなったんだ? 時雨のお姉さんが持っていた欠片と星河の持っていた欠片とが反応して、一つになったとか?」
夢の続き。肝心な所が見れていなかった。
それに対して、時雨が答える。
「いや、今はまだ二つに分かれたままだ。一つに戻したとしても、星河さんがその力を使えなかったら奪われやすくなるだけだからな」
「すぐにはクレセントムーンの力は使えないの?」
その星河の問いに、時雨は首を横に振る。
「いや、そんな事は無い。さっきの話でもあったが、欠片の状態でも力を使う事は出来るんだ。だから、今の状態でも星河さんはクレセントムーンの力を引き出す事は出来る。でも、そのやり方の…コツ、みたいなのが分からないと、いくらやっても使えないって事も有り得る」
「コツ、かぁ」
呟く星河。
「そんな難しい物じゃない。君がクレセントムーンの継承者であるならば、姉さんと違って容易く扱えるはずさ」
その言葉に、疑問が湧く。
「ってことは、時雨の姉さんもクレセントムーンの力が使えるのか?」
すると、何故か時雨は表情を暗くする。
「えっと、何かまずい事聞いたか?」
不安になり、再び問いかける。
「いや、大した事じゃ無い。一輝の言う通り、姉さんはクレセントムーンの力が使えるぜ。ただ、代償として姉さんは視力を失ったけれどもな」
さらっと言い放つ時雨。
だが、その言葉に僕と星河は目を見開いた。
「えっと、視力を失ったっていうのは…目が見えないって事だよね?」
おずおずと星河がそう聞き返す。
「そうだ。けど、その分姉さんは、聴力やアルドの感知能力が磨かれたから、普段の生活には何も困って無いぜ」
目が見えなくとも、見えている人と変わらず生活しているという事だろうか。
「耳だけではそうはいかないと思うけれども、アルドの感知というのは目の代わりになる位のものなのか?」
「そうだな、この感覚を言葉にするのは中々難しいんだが…鍛えれば目で見ているのとは変わらなく周囲の様子を察知できるだろうさ。むしろ、障害物などに妨げられないから、もっと良く分かるかもしれないな」
アルドの感覚というのが全く分からないので何とも言えないが、扱える本人が言っているならそうなのだろう、と僕は納得する。
「それで、私もクレセントムーンの力を使ったら目が見えなくなるって事?」
すると、そう言って星河が話を戻す。
「いや、星河さんが正当な継承者であるなら、そんな心配は無用だ。姉さんが視力を失ったのは、あくまで、無理矢理クレセントムーンの力を使っていたからだ」
「なるほど…」
星河はそう納得の返事をした。
「まぁ星河さんの力を引き出す練習は、話す事が一段落したらにしようぜ。一応、それなりに時間はかかると思うしな。まだ、聞いておきたい事はあるだろう?」
では、そろそろもう少し踏み込んだ質問をしてみよう。
「ところで、お姉さんが欠片のクレセントムーンの力をもっているんだとしたら、イーストステアーズの力と二つ持っているって事になるけど…実は時雨の方が継承者だったりしないのか?」
この問いは、今の時雨の話からというのもあるが、何よりも予知夢で見たからだ。
予知無では、自ら名乗りを上げていたではないか。自分がイーストステアーズの継承者だと。
「ふむ。結構…鋭い指摘だな。だが、クレセントムーンとイーストステアーズを両方持つことは可能だぜ」
「でも、持つ事と継承者である事は別なんだろ?」
そう言って、僕はもう一歩踏み込んだ。




