話の後で
ここまで、時雨一人が一気に話をした。
途中でいくつも疑問が浮かび、何度も口を挟もうかと思ったが、とりあえず最後まで聞こうと星河と二人で黙って聴いていたのだ。
やっと時雨は言いたい事を全て言い終えたのか、一息つく。
「全部話が分かったとは言えないけど、あの時、アパートで急にペンダントが光った理由は何となく分かったわ。私はまだ、お父さんから聞かなきゃならない話があるって事もね」
ゆっくりと、自分の言葉を確かめながら言っている様な星河の言葉。
星河はそう言ったが、本当におじさんは全部知っているんだろうか。
ペンダントの事を考えれば、シュトゥルーから来た者の子孫と言えるのは月夜さんの方じゃないだろうか。
だとしたら…僕の父さんの方が色々と知っている様な気がする。ペンダントを渡したのも元々は父さんだ。
と、そこで僕には一つの疑惑が起こる。そして、それを問いかけずにはいられなかった。
「ちょっと聞きたいんだけれども、いいか?」
「何だ?」
こちらを振り向いた時雨に、ドキドキと心臓の音が大きくなるのを感じながら問いを口にした。
「星河の持つクレセントムーンっていうのは、持つ者の寿命を縮めたりする事は無いか?」
「一輝、それは――」
続く言葉を飲み込む星河。
そんな僕の質問と星河の反応に、時雨は眉根を寄せる。
「いや、そんな話は聞いた事は無いが…」
そう言いながら、ちらりと星河の顔をうかがう時雨。
おそらく、時雨は察したのだろう。僕の質問の由来を。
つまり、星河は普通の人と比べて寿命が短いのだと。そして、僕がその理由を、今聴いたクレセントムーンという星河だけが持つ物と結びつけたのだという事を。
「いや、分からないなら良いんだ。忘れてくれ」
僕は少し残念に思いながらそう口にする。
もし、原因がはっきりしたなら、星河の寿命を延ばすという事も出来るんじゃないか――そんな思いが僕の中に少しあったのだ。
少しの間、周囲は何とも言えない気まずい沈黙に包まれる。
その沈黙を破ろうと、僕が口を開け掛けた時、
「いや、あるぞ」
時雨が何かに思い当たった様に声を上げた。
どうやら時雨は、ただ言葉を失って黙っていたのでは無く、何かに思いを巡らせていたのだ。
「え? な、何が?」
聞き返したのは星河。
星河自身も、僕の問いの答えが気になっていた様だ。そりゃあ、自分自身の事だ。当然か。
「考えてみたんだが、寿命が短くなるという事に心当たりがあった。さっきも話したが、アルドっていうのは『気』みたいなもんだ。『生命エネルギー』と言っても良い。だから――」
「アルドを使い過ぎると寿命が縮む?」
俺は時雨の言葉を待ち切れず、先に結論を口にする。
「ああ、そういう事も有り得る。だが、勘違いしないで欲しいが、普通はそんな事は有り得ない。アルドってのは体力と同じ様に、食事を取って休息をきちんと取っていれば回復して行くものだ」
アルドってのがいまいち良く分からないが、
「じゃあ、クレセントムーンってのが、必要以上にアルドを消費させるって事が?」
「本来のクレセントムーンにそんな効果は無い。むしろ、癒しの効果がある位だ」
時雨は僕の問いをすぐ切って捨てる。
けれども、自信が無さそうな声だが、すぐに言葉は続く。
「だが、今思い付いた事で言えば、二つに分かれていたクレセントムーン――つまり、効果が半分の状態で、完全な状態でぎりぎり使える様な紋章術を使えば……足りない部分のアルドを補うために、生命維持に関わるアルドを使ってしまう…かもしれない」
その答えで十分だった。
星河の寿命の問題は、やはりクレセントムーンと関係があると僕は確信した。そして、父さんに確認しなければいけないという事も。




