そして現代
聖風家の者が使うイーストステアーズだけは分けられなかったってのも、聖風家が一番に矢面に立つから、その力を弱めるのは危険だと判断したからだろうな。
だが結局、ひいひい爺さんの生きている内にアンビシュンが攻めてくる事は無かった。
反対に、ひいひい爺さん達の方もシュトゥルーに戻り反撃に出るという事も無かった。
アンビシュンを攻められる程、自信が付かなかったのか。はたまた、この世界に愛着がわいてしまって帰る気にならなかったのか…。
そこの所はもう本人達が居ないから分からないが、その次の世代になると、もうこの世界で生まれ育った人達だ。わざわざ見知らぬ危険な世界に行こうという気は起らなかったんだろうな。
結局そのまま、世代を重ねて今に至っているという事だ。
とは言うものの、アンビシュンがいつか攻めてくるんじゃないかと備えはずっとしていたんだ。この地下室もその備えの一つだし、俺が青木時雨という名で聖風家と離れて暮らしているのもその一つだ。
イーストステアーズの継承者は聖風家の中で唯一人。
姉さんがその力を受け継ぎ、弟の俺は名前を変え、聖風家と関係無い人間の振りをして生き、いざという時は姉さんを支える存在となる――まぁ初代の他の二人と同じ様な感じだな。
そして、ついに…結界が破られ、アンビシュンが攻めて来たんだ。そう、昨日の聖風家襲撃犯はアンビシュンの連中だ。
話はちょっと戻るが、最初に結界の異常を感じ取ったのは三月の終わり位だった。何者かが、結界を破ろうとしている事が聖風家にはすぐ分かった。
だから、それまでもう少し聖風家から離れて、別の町で暮らしていた俺がこの町に引っ越して来た。何かが起きても直ぐ動ける様にな。
そして、二週間程前、奴らはこの世界へとやってきた。
だが、結界を破れたのはほんの短時間で、こちらに渡って来れたのは少数みたいだがな。
だから、こちらに渡って来た奴らの最初の目的は、結界の完全破壊。そうすれば、この世界とシュトゥルーを自由に行き来する事が出来、向こうからの援軍がいくらでもやって来る事が出来るようになる。
そして、戦力が整えば、本来の目的――こちらの世界にある三つの至宝を手に入れるという事も楽に達成する事が出来る。
よって、まず俺達がしなければならないのは結界の防衛だった。
それで、この結界の話になるんだが、この結界はゲートの入口を囲む様にして選んだ四つのポイントを起点としていて、この四つのポイント全てを破壊されると完全に壊れてしまう。
結界を張る時、その内の二つを聖風家が。残りの二つのポイントを共に来た二人が受け持っていて、お互いにそのポイントが何処なのかは教えていない。
これも防衛上の配慮で、もし誰かから情報が漏れて壊される事になっても、全てが一斉に壊される事が無い様にという事だ。
奴らは最初に、聖風家の受け持ち以外のポイントを一つ破壊した。そのポイントが何処にあるのかは分からなかったが、結界の起点が一つ減ったという事ははっきりと察知する事が出来た。
そこで、俺は聖風家の二つのポイントの警戒を強めたんだが、結果はご覧の有様だ。
聖風家の屋敷は焼き払われ、結界の起点の二つのポイントも破壊されてしまった。ちなみに、ここの入口にあった倒された巨木――あれが起点の一つだった。
つまるところ、残る起点は後一つとなり、もう後が無い状況だ。
そして、残りのポイントは俺には分からないし、奴らが場所をつかんでいるのかも分からない状況だ。
残った俺に取れる手段は、奴らが結界を破壊する前に直接戦いを挑んで倒してしまうって事だ。まぁ結界を破壊する前に、奴らが真正面から戦ってくれる保証は無いがな。
そんな手詰まりの状況で見つかった希望の光、それが日高星河――君だ。
君の持っているペンダント、それこそが、別れた二人の内の一人が持っているはずのクレセントムーンの欠片。
それが、姉さんの持っていた残りの欠片と反応した事で、君がシュトゥルーから来た仲間の子孫である事が判明したんだ。
と言っても、星河さん自身はその辺の事情を何も知らないみたいだし、そのペンダントも親から受け取ったばかりだという事らしいな。
ならば、結界の起点の場所などは親が知っているのではないかと俺は考える。
聖風家は防衛の最前線に立っているという立場からか、俺達双子は幼い事から今までの話を聞かされて育ってきたが、残りの二つの家は、大人になるまでは子供に伝えないという風習にしていたという可能性はあるからな。
そして、クラウドルインズを受け継ぐもう一つの家は、クレセントムーンを受け継ぐ日高家と密接な関係にある可能性が高い。二つの家は、協力して残りの二つのポイントを守っていると聖風家には伝わっていたからだ。
それを考えると、星河さんと幼馴染の如月一輝――君がその可能性が一番高いという事になるが……現時点では、彼女のペンダントの様な確証は無いという事だ。




