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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
七章 伝承
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自己紹介


「ごめん、ちょっと聞いときたいんだけれども、星河は僕がここに来るまで何の説明も聞いて無いって事で良いのかな?」

「彼女が、お前が一緒じゃないと何も話したくないって言ったからな」

 答えたのは青木時雨だった。

「なるほどね」

 僕がそう呟くと、

「だってそうでしょ? こういう怪しげな勧誘は、自分一人だと上手い事言いくるめられて、知らない内に怪しげなたかーい商品買わされるんだぞってお父さんが言ってたもの」

 おじさん…そんな苦い経験があったのか…などという事は、今は置いておく。

 「はぁーー」と大きく溜息を吐く青木時雨を横目に、はたと気が付く。

 まず、最初にやっておくべき事があったのだ。

「あのさ、俺達同じ学校の同級生で顔見知りって事ではっきりしてなかったけど、ちゃんと自己紹介しとこう。その方が、うん、仲良くなれる…よね?」

 二人の視線が集まり、何となく自分の意見に自信が無くなって語尾があやふやになってしまう。

 だが、納得してくれた様だ。

「ああ、良いだろう。まずは俺の方が信用して貰わなければならないからな。最初にするぜ。俺の名前は青木時雨。この四月から近明高校に転校して通っている。その日高さんと同じ二年A組だ。時雨と呼び捨てにしてくれて構わない。よろしくな」

 ささっと自己紹介を終える青木時雨。それに続くのは、

「次は私ね。同じく近明高校二年A組の日高星河よ。隣の一輝とは幼馴染で物心が付く前からの付き合いね。そして、現在は二人は――」

「ちょおおおおっと待った! それよりも! 俺の自己紹介をちゃんとしないとな! 俺の名前は如月一輝。二年C組だ。俺の事も一輝って呼び捨ててくれて構わないよ。星河の言った通り幼馴染で、同じ商店街の御近所さんだ」

 そのまま星河に話を続けさせると非常にまずい事になりそうな気がして、僕は慌てて自分の自己紹介をする。

 それに対して時雨は顔をしかめる。

「姉さんが寝てるんだから静かにしてほしいんだがな」

 僕の態度に疑問を示しながらも、詳しくは聞いて来ない。

「そ、それはごめん。ちょっと失念しちゃって」

「もうー一輝、私の話はまだ終わって無いんだけど?」

 抗議の声を上げる星河が自己紹介を再開する前に、僕は急いで話題を変える。

「って、そうそう、そのお姉さんって言うのはどういう事なのかな? 彼女は聖風家のお嬢様だよね? 対して、時雨は青木って名字だけど」

 実際、一番に聞いておきたかった事だ。彼女と時雨の関係については。

「ああ、そこで寝ているのは俺の姉さん――双子の実の姉だ」

 あっさりと、その問いに時雨は答えてくれた。

 流石にその答えに興味が引かれたのか、

「って事は、もしかして彼女は聖風家の養女だとか? 聖風家の当主が離婚したとかいう話は聞いた事無いし――」

 星河もこの話題に食いついたようで、ひとまず安心する。

「それについては話すと長くなるんだが――」

「あっ、ごめん。家庭の事情をそんな無暗に聞いたらだめだよね」

「いや、そういう話じゃ無い。今の状況に関係しているから、きちんと順を追って話さなきゃならないって事だ」

 何やら勘違いしかけた星河の言葉を、時雨は否定する。

「それじゃあその話、最初から話して貰えるんだね?」

 僕が聞き返すと、時雨は大きく頷く。

「ああ。少なくとも日高星河、君には確実に関係ある」

「私には? 一輝には関係ないの?」

 名指しでそう言われた星河は、当然の疑問を投げ返す。

「一輝、君は――」

 時雨は言い淀むとうつむき、何故か自身の心臓の音を確かめるかの様に、右手を自身の胸の中心に当てる。

「俺は?」

 流石に待ちきれなくなり、先を促す。

「現時点では関係あるとは言いきれない。だが、君が彼女の幼馴染だというなら関係ある可能性は高い」

 なんとも中途半端な答えだ。

「とりあえず、聞いてみましょう。そうすれば分かるわ」

 星河が応え、僕も頷く。

 こうして、時雨の話が始まった。


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