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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
七章 伝承
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帰宅?

 予想通り、到着したのは聖風家のお屋敷……跡だった。

 昨夜の今日という事で、建物があった周りは黄色と黒のテープが張られていて立ち入る事が出来なくなっている。大方現場の調査は終わったのか、警察の人間はもういない様で、入ろうと思えばこっそりと中に入れそうだ。

 けれども、携帯電話での青木時雨の指示は中へと入れというものでは無く、その立ち入り禁止区域の外側、つまり竹林の中へと進んで行くようにと続く。

 とは言うものの、遠く離れる事は無く、屋敷の周りに沿って奥に進んで行くだけだ。

 しばらくそのまま進んで行くと、竹林の中から屋敷の裏側になるであろう開けた場所に出る。

 屋敷跡からは少し離れているので、この先は立ち入り禁止になっていないようだ。

 この場所は元々屋敷から裏手の方に続いている道の様で、屋敷の住人以外が入る事はない私有地内の道なのだろう。

 そのまま竹林に挟まれた道を進んで行くと、行き止まりとなる。

 そこは竹林の中にある半径十メートル程の広さの空き地で、一つを除いて特に変わったものは見当たらない。

 だが、その一つが重要だ。

 そこにあったのは、真新しい切り口を持つ巨大な切り株と、その横で竹林の竹を押しつぶしながら横たわっている樹齢百年は優に超えるであろう巨大な杉の木であった。

 それが記憶の中の、いや、予知夢の中のある場面を思い出させる。

 そう、昨日の夢の中で、ザルードが切り倒した巨大な杉の木だ。

 だが、あれは確かこの近くの高台の上にある善恩寺の境内の杉の木だったはずだ。もしこの場所であったならば、燃える聖風家の屋敷を見下ろすという事は出来ないはず。

 それに、あの時は杉の木の周囲に竹林など無かったはずだし…。

 となると、良く似た別の杉の木が、偶然同じ様に最近切り倒されて目の前に転がっている、と?

 そんな偶然ある訳が無い。いくらなんでも共通点が多過ぎる。二つは関係があると考える方が自然だ。

 そんな事を考えて杉の木を見ていたため、気が付くのが遅くなってしまった。 それまであった携帯からの声が、聞こえなくなっているという事に。

「何ボケっとしてんだ?」

 突然の右手からの声に、僕は驚く。

「うわっと! あ、青木時雨か」

 僕が驚いて大声を上げた事に対してか、青木時雨は少し眉根を寄せたが、特に怒るでもなく話し掛けてくる。

「ここまでくればもう良いだろう。電話、切って良いぞ」

「あ、ああ」

 言われた通り電話を切ると、携帯をポケットへと戻す。

 ずいぶん長々とうろつかされたおかげで今月分の通話料が心配だが、今は考えない事にしておく。

「ここに隠れ家がある」

 そう言って、青木時雨は切り株の後ろ側に行くと、しゃがみ込んで地面へと手を当てる。

 すると、その手の周りの地面に赤い紋様が浮き上がったかと思うと、

「ガツンッ」

 重々しい音が響き、地面がスライドする様にして人が一人通れる位の穴が開く。

 そこには、地下へと続く石作りの階段があった。

「ついて来い」

 青木時雨は迷わず、その暗闇の中へと歩を進めようとする。

「ちょ、ちょっと、この場所は安全なのか?」

 僕がそう問い掛けて呼び止めると、

「こういった事態に備えての隠れ家だからな。中はちゃんとしてるぞ」

「いや、そうじゃなくて――」

 何と言おうか僕は考える。

 化け物達などの予知夢で僕が知った知識の事を口に出して、余計な警戒心を与えてしまわない様に。

「この木は昨夜の襲撃犯が倒していったんじゃないの? それって、この隠れ家を探してたとかそういう事じゃ?」

「ああ、そういう事か。それは心配ない。奴らの目的は木を倒す事自体だ。姉さんを探してこの木を倒した訳じゃない。だから、この隠れ家の存在がばれている事は無いだろうさ」

 ここまで自信満々に言われると、その言葉を信じるしかない。

 大人しく、僕は青木時雨の後に続いて階段を下りて行く事にした。


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