寝過ごした午後
「……ハァーーーーーッ」
目を開けると同時に、僕は大きく息を吐いた。
考えるまでも無い。はっきりとしているこの感覚。続いて、空腹感も湧いてくる。
「まさか、昼寝していて見る事になるとはな」
呟く。
こんな短い時間の間に、それもあんな長い夢を見るとは…初めて尽くしの経験だ。
ん? 短い時間?
そこで、僕は慌ててベットから起き上がり、枕元の目覚まし時計へと視線を向ける。
そこには――
「四時過ぎ!? え、確か三時に星河と約束していた様な――」
急いで携帯電話を手に取ると、そこには幾つもの着信履歴があった。
「全く気が付かなかった……」
茫然として呟く。
だが、当然だ。予知夢を見ている時は、どうやっても起きないという事らしいから。
窓外へと視線を向けると、空は既にオレンジ色に染まり掛けている。
とりあえず、星河の携帯へと掛け直してみるが、何コール待っても電話に出る気配は無い。
電話は諦め、一度星河の家へ行ってみようかと思って自室を飛び出す。
階段を駆け下り、靴を履き替えて店へと出ると、
「ああー、お兄ちゃん! やっと起きたの?」
未だに店番をしている未鈴と出くわす。
呆れ気味のその言葉に、
「仕方ないだろ、ちょっと疲れがたまってたんだよ。お前こそ、まだ店番してるのか?」
そう言って話題を反らす。未鈴には、僕の予知夢の事は隠してあるからだ。
「お母さん一回帰って来たんだけどね、お兄ちゃんが全然起きて来ないからって、今さっき配達に出た所だよ。まったくー、お兄ちゃんのお陰で店番ばっかりだよ―!」
ふくれ面の未鈴に、少し申し訳なく思うが今はそれどころじゃない。
「それはごめんな。けど、俺今から出掛けなきゃならないんだ。もうちょっと店番頼むわ」
そう言って、返事を待たずして外に出ていこうとすると、
「ちょ、ちょっと待ってよお兄ちゃん! 星河ちゃんと一緒に?」
と、呼び止められる。
「ん? 何で知ってるんだ?」
問い返すと、再び頬を膨らませる未鈴。
「何でって、そんなの星河ちゃんが迎えに来たからでしょー! 約束してるのにすっぽかすなんてサイテーだよ!」
それは予想外だった。
いや、焦らずにちゃんと考えれば自然な事だ。あれだけ電話しても一向に出なければ、直接会いに来るというのは。
「え、星河来たの?」
「そうだよ! 電話する約束してたのに全然でないからって呼びに来たんだよ。それで、私がお兄ちゃんの部屋まで呼びに行ったんだよ? それでも、お兄ちゃん全然起きないしさー」
「悪かったって。それで、星河はどうしたんだ?」
聞き返すと、未鈴は大きく「はぁーー」と溜息を吐いた後、
「自分が直接起こしに行くって言って、お兄ちゃんの部屋まで上がって行ったよ」
「え!?」
妹はともかく、星河に自分が予知夢を見て眠っていた所を見られたとなる少し気恥ずかしく感じる。
だが、今はその事はとりあえず置いておいて、
「でも、俺は起こせなかったって事なんだろ…? 星河何か言ってたか?」
おそらく星河なら、いくら起こしても起きない僕を見て、予知夢を見ているんだろうという事は予測できただろう。
「暫くしてから下りて来て、結局起こせなかったって言って、諦めて帰ってったよ」
「え? それだけ? 他に何か伝言とか無かった?」
その僕の問いに対し、未鈴は首を傾げる。
「あれ、お兄ちゃん気が付かなかった? 何か伝言を書いて置いて来たって星河ちゃん言ってたけど?」
「それを先に言え!」
すぐさま家の中へと引き返す。
階段を駆け上り、自室へと入ると視線を巡らせる。と言っても、探し回る程ではなかった。
勉強机の上に、見覚えの無い一枚の、可愛らしい動物のキャラクターの描かれたメモ用紙が置いてあった。
手に取って見ると、そこに書かれていた文字は確かに見覚えのある星河の文字だった。
『先に行ってるから、目が覚めたらすぐに来るように! 追伸、夢の内容はきちんと話して貰うからね!』




