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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
六章 東階段
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決着


 一撃目、炎の塊がザルードへと向かって発射されるが、ザルードは横に飛び退きその軌道から逃れる。

 二撃目、逃れた場所にその場所を予測していたかのように見事着弾する炎の塊。だが、ザルードもそれは予期していた様で、留まる事無くすぐに地を蹴って移動する。

 三撃目、同じ様に予測通りと言った感じで、今度はザルードが着地するのとほぼ同時に着弾する炎の塊。

 今度こそ、爆炎の中にザルードの姿が飲み込まれる。

 その間に時雨は体勢を整え、間合いを取って爆発の中心へと鋭い視線を向ける。良く見ると、その手に握られる炎の剣が何時の間にか一振りだけになっている。

 直後、

「貫け!」

 ザルードの叫びと共に、炎の中から一閃の輝きが時雨へと向かって放たれる。

 先程も放たれた高速のレーザーを、時雨は残る炎の剣で受け流す様にしてその射線をずらして回避する。

 けれども、その光の筋は一筋では無かった。

 続け様に放たれた二撃目のレーザーはさばききれず、時雨の右腕をかすめて後方へと飛んでいく。

「うぐうっ」

 痛みに顔を歪める時雨だが、休んでいる暇は無い。

 続けて、爆炎の中から飛び出してくるザルード。

 爆発は防ぎきれなかった様で、その身を包む服は所々焼け焦げ、肌も黒く煤けている。だが、その目に宿る闘志は一向にかげりを見せていない。

 そのまま突っ込んでくるかと思われたその突撃はフェイントであった。

 直前に左右に身を振り、やはり剣を失い怪我を負った右手側が手薄だと判断したのか、その側面から勢いの乗った斬撃を繰り出そうとして――

「ぐああああっ、な、何ぃ?」

 苦悶の叫びと共に、動きが止まった。

 ザルードが視線を落とすと、その左足が炎の剣によって地面に縫い止められていた。

 そう、いつの間にか時雨の右手を離れていた剣は、今、この場所に獲物が来るように計算して、その場所に落下してくるように放り投げられていたのだった。

 時雨は残る左手の剣を振るうがそれはザルードの爪によって弾かれ、その勢いのまま後方へと跳び退る。

 間合いを取ったところで、時雨は構えを解くとザルードに話し掛ける。

「お互い、一撃ずつと言ったところか」

 それに対し、ザルードは足に刺さる炎の剣を引き抜き、それを右前方へ打ち捨てながら答える。

「ふっ、腕をやられるのと足をやられるのとでは大きく違うと思うがな」

 それは足をやられ、機動力を大きく欠いてしまった自分への自嘲が込められた言葉。

 その言葉に、時雨はにやりと笑みを浮かべる。

「なーに、心配する事は無いさ。戦いは、これで終わりだ」

 聴き方によっては、こちらはもう勝つ事が出来る、という勝利宣言に聞こえるその言葉に、ザルードは厳しい表情を浮かべる。

「何…だと…?」

 だが、それに対して時雨はかぶりを振る。

「俺がお前をここに誘き出した理由、さっき話したのも確かなんだがもう一つあるんだな」

 急に話題を変えた時雨に、ザルードは訝しげに聞き返す。

「何が言いたい?」

「こちらの様子が外に伝わらない。それは逆に、外の様子もこちらからは察知出来なくなるって事だ。つまり――」

 ここで時雨は視線をザルードからそらし、今まで以上に、本当にいやらしい笑みを浮かべて口にする。

「時間稼ぎをさせてもらったって事だぜ」

 その言葉に、ザルードは、はっとして時雨の視線の先を追う。

 その方向は、学校から見れば町の中心の方向だった。

 そして、その視界の中心には、地上から上空に向けて真っ直ぐに、眩いばかりの光の塔が伸びていくのが納められていた。

「まさか……あれは…」

 苦虫を噛み潰した様な顔でそう口にしたザルードに、全く正反対で楽しそうに答える時雨。

「くはははは! そう、その想像通りだぜ。くくっ、結界を張り直させてもらった。これで、ザルード――お前が自分の国に帰る事は不可能になったってことだ」


 と、今まではっきりとしていた視界が、だんだんと薄白くなっていく。

 そのまま、まるで霧の中に居るかの様にはっきりとしなくなっていき、そして――――



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