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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
六章 東階段
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対決


 言い終わるや否や、時雨は動いた。

 とても普通の人間では有り得ない様な跳躍で、真っ直ぐ上に飛び上がる。おそらく、四階建ての校舎の屋上と同じ位の高さだ。

 そして、叫ぶ。

「燃えさかれ! イル・デ・ション・レド!!」

 瞬時に、時雨の目の前の空中に赤い紋様が浮かび上がる。それは、前回見た夢の物よりも遥かに広く大きく広がる。

 次の瞬間、いくつもの赤い炎の塊が、黒い異形の怪物達に降り注ぐ。

「ぎぃいぃぃいあああああ!!」

「ぎゅえぇぇぇぇええ!!」

 それぞれ異なる絶叫をあげながら、炎に包まれる異形達。

 だが、その全てが炎に捕まった訳ではない。半数程は炎の嵐をくぐり抜け、鎧の騎士と共に周囲に散らばっていた。

「確かに強力な紋章術! だが、当たらなければ――」

 ザルードの言葉は途中で遮られる。

 何故なら、共に逃れたと思われた黒い異形達が、次々と炎に包まれていったためだ。

「くっははっ。はははははっ。甘い甘い、甘すぎるぜ! おっまえ、簡単に言葉に騙され過ぎ。俺が唱えた呪文が一つだからって、展開した紋章が一つだとどうして思った!?」

 空中に浮かんだまま静止している時雨。

 不意打ちからの今の笑い方で、どう見ても時雨の方が悪役のようだ。

 かたや、正々堂々と戦いそうな外見の鎧の騎士。

「まさか、紋章術の多重展開?! その若さでそんな高位の芸当を!」

 信じられないと言った様子でザルードがそう叫ぶと、時雨はより楽しそうに笑いを漏らす。

「くははははっ。歳など関係無い! それがイーストステアーズの力だって事だ。どうする? たった一手で、貴様以外は消し炭になっちまったぜ?」

 だが、ザルードには全く焦った様子は無い。先程の言葉は純粋に驚いていただけで、勝負の行方はまだ決していないとばかりに口を開く。

「ふん。元より、あんな怪物共などあてにしていないさ。私一人で目的は達成してみせる」

 言葉に続き、ザルードの目の前に紋様が浮かび上がる。

 時雨の紋様が赤いのに対して、浮かび上がった紋様は黄色っぽい色だ。紋の形も、時雨のものとは全然違う。

「我が剣よ! 我が主の敵を貫け!」

 叫びと共に、手にした錫杖を時雨の方向に向かって突き出す。

 紋様を突き抜けながら放たれたその突きは、輝きの一閃となって時雨へと到達する。

 正にそれはレーザービーム。

「ちぃっ」

 舌打ちと共に身体をひねって、そのレーザーを紙一重で避ける時雨。

 だが、体勢を整えるよりも早く、時雨の目の前にザルードが現れた。

 正確には、時雨と同じ様にザルードも跳躍しただけなのだが、レーザーを避けるためにザルードから一瞬視線を外した時雨からは、突然目の前に現れた様に見えただろう。

 反応は、明らかに間に合っていなかった。

 左上から振り下ろされた錫丈は、無防備な時雨の脇腹へと吸い込まれ、次の瞬間、壮大な土煙を巻き上げながら、時雨の体は地面へと衝突していた。

 ザルードはそのまま追撃に移るのかと思われたが、直下へと急降下するように見えたその身体は途中で九十度回転。

 時雨の衝突が巻き起こした土煙から間合いを取って地面へと舞い降りた。

「ちっ、上手く行くと思ったんだがなー勘付かれたか」

 言葉と同時に、土煙の周囲に連続で赤い紋様が浮かび上がる。そして、そこから上空に向けて炎の塊が連続で打ち上げられていく。

 視界の中にはその炎の行き先は収められていないので、最後はどうなったのか分からないが、そのまま炎の塊が降って来るような事は起こらない。

「それだけ無駄に多く土煙が上がっていれば、おかしいと気が付かない方が少ないのではないか?」

 ザルードはそう応えたが、見ていた僕には全然分からなかった。四階程の高さから叩き落とされて巻き起こるであろう、土煙の適当な量などというものは。

 すぅーっと舞い上がっていた土煙が晴れると、そこからは全く怪我などしていない時雨の姿が現れる。

 明らかに錫杖が命中していた様に見えた脇腹も、殴打の跡など全く見えない。

「俺は、騎士様と違って魔法使いなんでね。正々堂々と殴り合うんじゃなくて、隙をついて、長距離から焼き尽くすってのが本職な訳。なんで、悪く思わないでな」

 けろっとした顔で青木時雨はそう言ってのけた。

「かまわんさ。貴様は貴様のやり方でやれば良い。そして、私は私のやり方で、ただ敵を討つのみ!」

 今度は、ザルードの方が先に動いた。



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