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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
一章 予知夢
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放課後

 午後の授業も問題なく終了し放課後。

 帰宅部である僕は、鞄を手に取るとすぐに席から立ち上がる。

「雅人、帰ろうぜっ」

 入り口近くで雅人に声を掛ける。

「おう。んじゃいこかー」

 同じ帰宅部同士、大概一緒に下校している。

 雅人の家自体は僕の家とは逆方向なのだが、雅人はうちの商店街にある喫茶店でバイトをしているため、下校は同じ方向へと行くことになるのだ。

 僕達二人は今日の授業がどうだったとか、クラスメイトがどうしたといった毒にも薬にもならない話をしながら学校を後にする。

 校門を出て、緩い坂を下って行くと、この街の駅へと向かう道と商店街へと向かう道へと分かれる。

 ここで電車通学の生徒達とは別れるため、道を歩いている生徒の数は半減する。

 逆に、それまで下校途中の近明生徒位しか見られなかった道に、買い物に向かう主婦や、自転車に乗った他校生の制服姿などが見られるようになり、行き交う人数は多くなる。

 するとそこで、普段は見かけない、変わった人影が目に入ってくる。

「あれ、こんな所で……托鉢?」

 真っ黒い袈裟を身に付け、編み笠を目深に被って両手を胸の前に合わせている一人の男が直立不動で道の端に立っている。

 いわゆる坊さんの格好だが、この辺で道端に立っているのを見たのは初めてである。

「ああ、一輝は見るの初めてなん? 連休の前辺りから、ほとんど毎日見かけるようになってたんだけど」

 雅人は一べつしただけで、特にその坊さんは気にならない様子。

「あーそうなんだ。俺は初めてだ。でも、今まで見たことなかったのに、いきなりどこから来たんだろうな」

 素直に疑問に思ったことを口にすると、雅人がすぐに答えてくれる。

「聞いた話によるとさ、街の北の方に善恩寺ぜんのんじってあるじゃん? 高台になってる所。そこに最近やって来た修行僧らしいよー」

 雅人は喫茶店などでバイトをしているせいか、色々と地域の噂に詳しい。

 何でそんなことを知っているのかと思うことも数多くあり、雅人の情報網は侮れない。まぁ、その内容が本当なのかどうか確証はないのだけれども。

 今の話、善恩寺という名称は聞いたことはなかったけれども、高台に寺があるということは知っていた。

 昼間、星河と話したあの竹林の横を抜けていかなければならず、肝試しスポットとして結構有名だ。

 かく言う僕も、小学生の頃に友達と肝試しをやったことがある。

 暗い中、ざわざわと竹のすれる音に怯えながら、寺の本堂まで星河と二人で歩いて行った記憶が、今でもはっきりと残っている。

 ちなみに、その寺に至る道はぎりぎり聖風家の土地ではないらしい。

「修行ねぇ~。ま、ご苦労なこった」

 それだけ呟くと、僕はその坊さんから興味を失くし、また別の話題を雅人に振る。

 そして、そのまま笑いながらバカ話を続け、雅人のバイト先の喫茶店の前で雅人と別れると、そのまま独りで自宅へと帰るという普段と何も変わらない帰り道を過ごした。



「ただいまー」

 そう言いながら、如月酒店と書かれた店へと入って行く。

「お帰り、一輝」

 出迎えたのは、店番をしていた母親だ。

 商品が並べてある間を抜け、奥の居住スペースへの扉を開ける。

 靴を脱いで上がるとすぐ横に二階への階段があり、僕の部屋はその二階に上がってすぐ横にある。

 と、階段を上ろうとした所で、

「荷物置いたらいつも通りお願いね~」

 後ろから母親の声が聞こえてくる。

「はいよー」

 答えた通り、部屋に入ってベッドの上に鞄を投げ、制服の上着だけ脱ぐとすぐに階下へと戻る。

 外に出ると、店の脇に止めてあるトラックへと向かう。

 その荷台にはビンの詰まったケースがぎっしりと載せられていて、それを降ろすのが僕の仕事だ。

 毎度のことなのでもう慣れていて、てきぱきとケースと重ねて運んでいく。

 このお陰で、腕力だけは無駄に付いているのだが、実際は小遣いを貰うためにしかたなくだ。

 まぁ、部活にでも入っていれば無理やり家の仕事を手伝わされるようなことはないのだろうけれども、僕は団体行動というものが苦手で、中学で入った剣道部も一ヶ月も経たずに行かなくなった。

 そして、現在の高校でも帰宅部という訳だ。


 三十分もせずにトラックの積み降ろしは終わり、その後は配達である。

 お得意さんやらから受けた注文の品を届ける訳だが、もちろん年齢的に免許はないので車の運転など出来ない。

 ちなみに原付の免許も持ってないので、自然と自転車で配達することになる。 まぁ、それで出来る小口の注文分だけなのではあるが。

「母さん、終わったよ。配達行くから、行き先と商品を――」

 母親から配達先の書いてある紙を受け取り、商品を自転車の後ろに紐でくくりつけ、前のかごにも載せる。と、そこで気が付く。

「そういえば父さんは? トラックはあるし、配達とかじゃないよね?」

 いつもなら呼んでもいないのに出てきて、運ぶのが遅いだの、もっとまとめて持てるだろだのと難癖を付けに来るのだが、今日に限ってその姿が見えない。

「あぁ、それがねぇ…」

 何故か母さんは言い淀む。その表情は、なんだか困っているような感じだ。

「何? 何かあったの?」

 流石にその様子が気になったのでそう問いかける。

 すると、母さんはハッとしたような表情を見せ、

「ううん、何でもないの。お昼頃、いきなり急用が入ったとかで出て行っちゃって。どこに行ったのか私も知らないのよ」

 と答える。

 まぁ父さんも、出かける度に毎回行き先告げてるって訳でもないしな。

「ふーん、急用ねぇ~。車使ってないならそんな遠くに行った訳じゃないんでしょ」

「そうだと思うけど、店番変わってもらえないと買い物にも行けないから、困ったわ」

 確かにそれは問題だ。

 うちは父母と僕と妹の四人家族。

 未鈴は部活があるので帰ってくるのは遅いし、父さんが居ないなら母さんが店番をしているしかない。

 僕が店番をしてもいいのだが、配達が遅くなり過ぎるのは余り良くない。

「途中で見かけたら、早く帰るように言っとくよ。で、俺もなるべく早く終わらせて帰ってくるから。まだ帰って来てないようだったら店番変わるし。んじゃいってきまー」

「そうね。でも、急ぎすぎて落としたりしないでね。いってらっしゃい」

 そうして、僕は家を後にした。



 結局、父さんが帰ってきたのは、部活を終えて帰ってきた未鈴よりも後だった。



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