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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
六章 東階段
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居眠り、そして


「ああ、わーるいわるい。ちょっと寝不足だったから眠くなっちゃってさ。ごめん、ちょっと部屋言って一眠りしてくるよ」

 そう誤魔化して、立ち上がる。

「あ、ちょ! ずるい! 私だってお昼寝したいのにー!」

「未鈴が店番頼まれたんだろー。ちゃんとやってないと、さっきの事、お母さんに言っちゃうけどー?」

 その言葉は効果てきめん。すぐさま未鈴は引き下がる。

「むー。分かったよ。お母さんには、本当に言わないでね! 絶対だよ!」

 念を押す妹の声をバックに、僕は二階への階段を上って行った。


 昼休み中、星河と話している内に爆発事件が起きて緊急避難となったお陰で、昼食を食べ損ねてしまっていたのだが、帰宅途中に星河と共にコンビニに寄っておにぎりなどちょっとした物を買って来ておいた。

 それを部屋でぱくぱくっと平らげ、お腹も膨れた所で、青木時雨や聖風家のお嬢様についてあれやこれやと思案する。

 だが……一眠りすると妹に言ったのは咄嗟の言い訳であったが、ベッドの上に横になっているとだんだんとまぶたが重くなってくる。

 ああ、まだ青木時雨宅に再訪する前に、考えておかなければいけない事が……と思うが、そのまぶたの重さに逆らう事ができない。

 ああ、重い…。

 あれ、僕は……今、何を考えようと、考えて…いたんだっけ――――



 辺りは暗闇に包まれている。

 けれども、少し離れた所には街灯の明かりがあるため、完全な暗闇とは言い難いその場所。

 周囲に人の気配は無く、広くて真っ平らで何も無いその場所。

 そんな場所に、一人の男が立っていた。

 映画のカメラが近付くように視界がその男に寄って行き、その人物が青木時雨だという事が見て取れた。

 良く見ると、彼の背後から少し離れた所には大きな建物が立っている。

 暗闇の中で見るそれは不気味に視界に映るが、本来ならば見慣れた親しみのある建物。僕達の通う近明高校の校舎だ。

 つまり、青木時雨は、夜の近明高校の校庭に一人立っているのだった。

 その様子は、誰かと待ち合わせをしているかの様。

 否、実際に青木時雨は待っていたのだった。

「よう、遅かったな」

 発せられたその言葉によってそれを悟る。

「それはそれは。待たせちまった様で…すまなかったな」

 謝罪の言葉だが、全く気持ちがこもっていない。

 その言葉を発したのは、いつの間にか青木時雨の正面、十メートル程の所に立っていた一つの黒い影。

 こちらも見覚えがあった。そう、編み笠を被って闇に溶け込む黒い袈裟をまとった姿に、手に握られる錫杖。

「せっかくご招待したってのに、招待状の意味がちゃんと伝わらなかったのかと思ったぜ。ったく、待ちぼうけになるのかとヒヤヒヤして待ってたんだぜ?」

 友達にでも話し掛ける様な気軽さで、青木時雨はそうぼやく。

「ふはは、これほどはっきりとした招待状を用意しておいて――分からぬはずがないだろうよ!」

 そう言って、僧侶は手に持つ錫杖でトントンッと地面を叩く。

 それが、地面を指し示しているのだという事に気が付いたのは、続く青木時雨の行動によってだ。

「そう言ってもらえると、張り切って用意した甲斐があるってもんだ。こいつをよ」

 そう言って青木時雨は地面を指さす。

 そこで気が付く。二人の立っている場所が、校庭の隅――昼に爆発があった正にその場所だという事に。

 つまり、昼間の爆発は青木時雨が起こした物であり、それによって、今相対している相手を呼び出したのだという事だ。



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