妹と店番
「って、私の方はともかく、何でお兄ちゃんまでこんな時間に帰って来てるの? さっきから消防車のサイレンとかうるさかったけど何か関係あるのかな? 事件なのかな?」
と、未鈴は急に思い出したのか、相変わらずわくわくと心躍らせている様子で問いかけてくる。
「お前…何も分かって無いじゃないか!」
思わずそうつっこんだが、
「ね、ね、それで? 何かあったの?」
全く取り合わずに、質問攻めを止めない未鈴。
「はぁーったく。ここにも聞こえて来なかったか? また大きな爆発音」
昨日の聖風家の爆発も、家にまで聞こえていたらしい。それよりも近い学校で起こった爆発だ。聞こえていてもおかしくない。
「爆発音? う、う~ん、分からなかったなぁ。サイレンの音は良く聞こえたけども、昼間は工事の音とか大きな車が走る音とかで、意外と世の中うるさいからねぇ」
妙に上ずった声のその変な返答で、僕はピンとくる。
「未鈴、お前…居眠りでもしてたな?」
「い、いや~お兄ちゃん流石だね! 未鈴の事、良く分かってる~!」
「褒めて誤魔化そうとしても駄目だぞ。店番中に居眠りしてたとか、またお母さんに知られたら……どうなるかなー?」
にやりと笑みを浮かべてそう言ってやると、明らかに未鈴の焦り様が増す。
今までも、何度か店番中の居眠りをやらかした未鈴は、その都度母親からの大目玉を食らっている。
「ま、まーまーその話は置いておいて、爆発って何があったの? 話の続きがすっごく気になるなぁ~!」
必死に話を反らそうとする未鈴。
外でのお返しとばかりにもっとからかい返してやりたかったが、これ以上やって機嫌を損ねられても面倒なので、問われた事に素直に答える事にする。
「学校で爆発事故があったんだよ。あ、うちの学校の事だからな?」
先程まで聖風学園の事を話していたので、勘違いしないように一応そう付け加える。
「学校が爆発って――え、ええ? だ、大丈夫だったの? 誰か怪我とか――」
昼間の学校で爆発があったと聞いて、流石にお調子者の妹でも焦ったらしい。
その様子が微笑ましく感じて、思わず笑みがこぼれる。
「ふふっ、別に未鈴が慌てる様な事は何もないさ。俺は――ってか、誰も怪我はしてない。ただ、校庭の隅の方で爆発があって木とか塀とかが燃えただけさ」
その僕の言葉に、未鈴は一安心したようだ。
また元の調子に戻って、
「そっかー。それなら良かった。って、それでお兄ちゃんとこも学校休みになっちゃったってことかぁ」
「そういう事。午後の授業は中止さ」
「で、その爆発って何だったの? もしかして、昨日の聖風家の事件と関係あるのかな?」
再びきらりと輝きだした未鈴の瞳に若干呆れながら、
「いーや。何も分かってないよ。何であんな所で爆発があったのか原因不明だよ。建物があった場所でもないし、何も無い校庭の隅っこが急に爆発とか…全くの謎だな」
と、未鈴は腕を組んで考え込む仕草をすると、探偵の様に推理し始める。
「校庭で急に爆発…ふむー、それはー、あれ、あれだね。不発弾。不発弾が埋まっていたというのはどうだね、ちみ?」
ちみって。
苦笑いしつつ答える。
「地面の様子から、何かが埋まってたって線は無いそうだ。地中の何かが爆発したっていうなら、もっと地面がえぐれていたただろうな」
そう、僕が直接見た爆発跡は、どう見ても地上で何かが爆発したという様な跡だった。上からも下からも何かが来たという可能性は無いだろう。
「ふーむ、この事件…思いの外難事件ですねぇ。やはりこれは……昨日から続く連続爆破事件…なんですかねぇ?」
一体何のキャラなのか分からないが、妹の演技に付き合うのもめんどくさくなってきたので、話題を変える事にする。
丁度、未鈴に聞いてみたい事があったのを思い出したのだ。
「何も分かんないって言ってるだろ。警察の捜査が終われば幾らか分かると思うぞ。それはそうと、ちょっと聞きたい事があるんだけど良いか?」
その僕の問いに、
「仕方ないですねぇ…で、聞きたい事って何―?」
普段の様子に戻る。今までのが、未鈴の中の探偵のイメージなのだろうか。
「ま、さっきの話に戻るんだけどさ。お前の学校の方の話」
「ん? 聖風学園? 休みは一応今日だけで、明日からは普段通りある予定だったけど、お兄ちゃんの学校でも事件があったってなると、休みが続くかも?」
いやいや、僕が聞きたいのは、いつまで学校が休みだとかそういう事ではなくて。
「んな事じゃねーよ! 行方不明になってる聖風家のお嬢様。彼女って聖風学園の生徒なんだろ? どんな人か知ってるか?」
聞きたいのは昨日助けた女性――あの人が、どんな人物なのかという事だ。




