出迎え
六章 東階段
「何してるの、お兄ちゃん?」
予想外の声に出迎えられた。
「み、未鈴? え、な、何で?」
頭をぶんぶんと振っている所を妹に見られ、気恥ずかしい気持ちに言葉が詰まる。
「何でって、お母さん買い物に出掛けてるから店番してるんじゃん」
当然の様にそう答えるが、欲しい答えはそれじゃ無い。
店番をしていて、ガラスの入口越しに外でおかしな行動をしている兄が見えたので、出て来て声を掛けた――そんな事は言われなくても分かる。
「いや、そうじゃなくって――」
僕が聞きたいのは、この平日のお昼を回ってすぐの時間に、
「――何で家に居るのかって事だよ!」
すると、本当に今気が付いたと言わんばかりに未鈴はぽんっと手を打つと、
「ああー、なるほどー。その事かー」
わざとらしく、そう言った。
こいつは…分かっててわざとさっきの答えを返した訳か。
僕が言い返そうと口を開きかけた所で、
「ふひひひひっ。それはそうとお兄ちゃん、いつまでも家の前で突っ立って無いで、とりあえず中に入ったら?」
未鈴は本当に楽しそうに笑いながらそう言って、店の中へと引っ込んで行く。
「あ、おい、待てって」
そう言いながら、僕は妹の後に続いた。
家に入ると、売り場のカウンター内の椅子に座る未鈴に対して、少し離れて住居入口の段差に座る僕。
「昨日、聖風家で爆破事件が有ったのは知ってるでしょ?」
妹はそう話を切り出す。
「そりゃあもちろん。この町に住んでて知らない人はいないだろ」
「でさ、私の学校、私立聖風学園は聖風家が経営してる学校な訳でしょ。聖風家関連で、学校にも何か続けて事件が起こったら大変だって事で、今日は臨時休校になったんだよ」
「あーなるほど、そういう事か」
言われてみれば、納得の理由であった。
「お兄ちゃん、今朝はいつも先に出て居ない私が家に居たってのに、全然気が付かずに高校行っちゃうんだもん。注意力が足りないよ―」
そう言う言葉からは、何処かすねている様な雰囲気が伝わって来る。
「そりゃー、こっちも昨晩は色々あったからさ。あんまり良く寝れなかったし、朝もちょっと考え事しててさ」
昨夜遅くまで僕が出掛けて居た事は、妹にも伝わっている。家を飛び出した星河を探して、とは言ってないと思うが。
「うん、それは聞いてる。星河ちゃんのお母さん――本当のお母さんの話があって、お兄ちゃんも一緒に聞いてたんだって」
星河が今の母親と血がつながっていないという事は、未鈴も元から知っている。だから、本当の母親がどうして亡くなったのかという様な話を昨日したとでも未鈴には伝わっているのだろう。
「まぁ、その話はさ、星河は星河で心の整理は出来たみたいだから良かったんだけどね」
「ん? 他にも何かある様な言い方だね?」
と、やけに鋭く突っ込んでくる未鈴。
「いやいや、まぁ学校とかでも色々あって疲れてたんだよ昨日は」
そう言って誤魔化す。
まさか、聖風家の事件に関わっていたとは言えないし、話を無理矢理別の方向にもっていく。
「それはそうと、聖風家のお屋敷と聖風学園って全然違う場所にあるよな。それでも、事件に関係ってあるものなのかな?」
二つとも同じ町の中にあるのは確かだが、歩いて移動したら三十分以上かかる距離だ。
「そーんな事分かんないよ。でも、もしかして、聖風家に何か後ろ暗―い事があって、悪い組織さんなんかに狙われてるとかー? わーこわーい」
全然怖がっている様に聞こえない。むしろ楽しんでいる様な…。
明らかに冗談として言っているようだが、僕は冗談で済ませる事が出来ない。
悪い組織――というか怪物達が狙っているのは確かなのだから。
「なーに? お兄ちゃん真面目な顔してるー?」
と、僕の反応が不満だったのか未鈴はそう口にする。
「おいおい。そりゃー未鈴は学校休みになって気楽なのは良いけどさ、結構な被害が出てる事件なんだからさ、あんまり茶化す様な事を言うのは良くないぞ」
そう、実際人が一人は亡くなっているのだから。
「むー。ごめんなさい」
と、素直に謝る未鈴。
中学二年と言ってもまだまだ子供らしい純真さが残った良い子だな、などと兄馬鹿な感想を思い浮かべつつ、
「うむ。分かれば良いのだよ。分かれば」
おちゃらけて、そう応えた。




