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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
五章 三日月
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これまでのまとめ


「ってことで、今後の方針も決まったところで、今までの事をちょっと整理してみない?」

 星河はそう言うと、腕組みをして考え込むような仕草をする。

「整理っていうと…?」

「まずは、最初の夢から。場所は聖風家のお屋敷で、時間は朝方か夕方。出て来たのは、青木時雨と昨日見つけたあの女性で間違いない?」

 場所も時間も登場人物も、星河の言う通りだ。

「うん、間違いないよ」

「という事は…昨日の夜の事件で、聖風家のお屋敷は無くなっちゃった訳だから、その場面は昨夜以前の出来事って事になる。可能性としてあるのは昨日か一昨日の朝夕って事ね」

 ふーむ…あの場面が何時だったのか…そう言われるとはっきりしていなかったな。

 昨日の夢に関しては、聖風家が燃えるという唯一の要素が有ったために何時の出来事かは容易に特定する事は出来たけれども、最初の夢は一体いつなのか――

「でも、それってその四つの可能性の内、何時でも良いんじゃない? 問題は、昨夜の襲撃事件が有る前に、あの女性が青木時雨に何か重要な物を託したって事――それが最初の夢の内容だと思うし」

 僕の指摘に対し、星河はうんうんと頷く。

「そうね。その夢の内容から予測出来る事…彼女が託したもの――それが襲撃犯の目的のお宝だったってのはどうかな?」

 確かに夢の中の彼女は、人目を忍んで何かから隠れる様にして青木時雨と会っていた。

 青木時雨と密会した事――ひいては青木時雨に何かを渡したという事は極秘であったという事が予測出来る。

 そこに、あの襲撃事件。確かに、犯人が彼女が渡したものを狙っていたとしたら、彼女がまだそれを持っていると思って襲撃したと考えるのは妥当だ。

 でもそれでは、あの怪物達が狙っている物を預かっている青木時雨自身が、直接怪物達と対峙していたというのはおかしな話となる。

 となると――

「その可能性はあるかな。でも、それを青木時雨が今も持っているとは限らない」

 青木時雨自身のことが怪物達に知られていたとしても、例の預かり物はどこか見つからない場所に保管してある――そう考えた方が自然だ。

 今日の夢で見た様に、まだあの女性が青木時雨の家で寝ているのだとしたら、あの場所は怪物達には知れていないということだ。

 であるならば、あの家に置いてあるという事も…。

「まぁ大切なものだとしたら、持ち歩くよりもその方が良いもんね。で、今日の夢で私とあの女性が会う所を見たって事は、まだあの家は安全だってことだよね? つまーり、隠し場所としてあの家は有り得るかもね」

 そう、あの家に行くという事が三つの夢が繋がる未来という事になる。

「やっぱり、今日の放課後に行くしかないね。今日の夕方、か」

 行って、あの女性と青木時雨から話を聞く。

 きっと、昨日とは違って何か話を聞く事が出来るだろう。何しろ、星河が――星河の持っているペンダントが、彼らの秘密と関わっている可能性は高いのだ。

「それは、今日見た夢から話が聞ける事は確定してるって事で良いのかな?」

 察しの良い星河はそう問いかけてくる。

「たぶんね。話してるところを夢に見た訳じゃないけど、状況からして何か分かるはず…」

 曖昧だが、話せるのはこの辺りまでだ。

「なるほどね」

 はっきり言えない事情を察知して、深くは聞かずに何か思案し始める星河。

 ところで、ペンダントの事は星河に確認しておかなくて良いだろうか。いや、夢に見た以上は、あの家に行く時には星河は必ずペンダントを付けて行くんだろうけれども…。

 今もペンダントをしているのか気になり、僕は星河の首筋へと視線を動かす。

 すると、ペンダントヘッドは制服の中に隠れているため良く見ないと気が付かなかったが、確かに銀色のチェーンの様な物が制服の襟の隙間からのぞいているのが目に入った。

「ん? 何? これが気になる?」

 そんな僕の視線に気が付いた星河はそのチェーンを引っ張って、その先にある物――鈍色の三日月型の石を服の中から取り出した。

「ふふ~ん、普段アクセサリーをしていない私が何か付けてると思って気になっちゃったんでしょう?」

 何故か得意気に、そう言って三日月を見せつけてくる星河。

 本当に、何故その嫌らしい笑みが浮かんでくるのかは分からないが、僕が気にしていたのは別の理由からだ。

 けれども、それを明かす訳にはいかないので、

「いや、そうじゃないって」

 否定の言葉を返すと、何故か、より星河のにんまりとした笑顔は輝きを増す。

「いいっていいって、隠さなくても。これはね、お母さんの形見なんだ。昨日、青木君の家から帰った後に、お父さんから渡されたの。私の秘密を話すまではお母さんに関わるものは全部隠してたらしいんだけど、今ならってね」

 いや、まあ、そのペンダントをおじさんに届けたのは僕なのだから、当然そんな事は知っているのだけれども……あまりにも嬉しそうに話す星河に対して水を差す様な気がして、それを言ってしまうのは気が引ける。

 と、何て言ったら良いのか迷っていると、

「何よ、変な顔しちゃって? 別にこれは悲しい事じゃないから良いのよ。私は嬉しいんだから。今まで一つも無かったお母さんと関わりのある物が、こうして身につけられて」

 そう言って、星河は手に乗せた三日月を眩しそうにして眺めている。

 何やら僕が言葉を発せずにいる理由を勝手に勘違いしちゃっている様だが、これのどこが、「一輝の心の中なんて丸分かり」だ。全然分かってないじゃないか。

 そんな風に昨夜の言葉が思い出されると共に、自然と笑いが込み上げてきた。


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