続々、屋上にて
昼休み、屋上。
相も変わらずいつもの場所に、僕と星河は並んで座っていた。
「それで、話す事はまとまった?」
星河はそう言って話を切り出した。
「うん、大体ね。まず最初に謝っておく。ごめん。星河の言った通り、昨日の事件の事も夢に見ていたんだ」
まずは、そこから順を追って話さなくてはならない。そもそも、隠し事をしていてもすぐにばれてしまうのだし。
「やっと話す気になったのね。で、何で隠してたのかしら?」
星河はやっぱりね、といった感じで特に怒っている様子は無い。
それは有り難いのだが、何だか見透かされてる様でちょっとしゃくに障るが…と、今はそんな事は置いておこう。
「昨日も夢を見たんだよ。つまりね、二日連続って事」
「わお、それは――何と言うか今までにないペースね」
星河は言葉の通り、素直に驚いたようだ。
そう、こんな連続で見たのは初めてなのだ。だから――
「だから、自分自身でもちょっと戸惑っちゃって。確かに、いつもの目覚めの感覚はあったんだけど、もしかしたら勘違いなんじゃないかって。でも、昨日の夜の出来事が進んで行くにつれて、やっぱり間違いじゃ無かったんだって――」
「なるほど、一輝自身も半信半疑で、起こっている出来事に自信が持てなくて、私には話せなかったって事ね」
言い終わる前に、星河が話をまとめてくれる。
それは助かる。
考えた結果、やっぱり化け物達の事――つまり、昨日の夢の内容については、星河には詳しく話さないと決めたからだ。
だから、星河が自分で内容を補完してくれると話が進め易い。
「それで、昨日の夜起こる事は夢で何となく分かってたんだ。で、問題はここからなんだけど――」
「問題?」
「さっきの休み時間に話したと思うけど、今日も見たんだ」
「ええ、そうよね。今の話を考えると三日連続って事かぁ…よっぽど重要な事が今起こってるって事なのかな。それで、今日のには私が出て来たんだよね?」
星河は自分に関わる事に興味津々といった様子。
余り気は進まないが、言うと決めたのだ。ここまで来て誤魔化す訳にはいかない。
「時刻はたぶん夕方。場所は昨日のあの部屋――青木時雨の家に間違いない。何でかっていうと、見覚えのある部屋で昨日の女性がベッドに寝ていたからね」
「それで?」
星河は話の続きを急かしてくる。
だが、僕は慎重に言葉を選びながらゆっくりと話す。余計な事を話して、星河を危険に巻き込む訳にはいかないから。
「そこで何が有るのかは、俺が見た内容では星河は知らなそうだったから、詳しくは話せないよ」
予知夢の出来事は絶対だ。
昨夜の僕がそうだった様に、起きる事が分かっていれば起こった出来事に対して冷静に対処出来る。
けれども、今日の夢の中の星河は、どう考えても予想外の出来事に驚いている様子だった。つまり、予知された内容を知らないからこその驚き。
もしここで、星河に「ペンダントが急に光り出して、星河は驚いていた」と話そうとしても、それは叶わないだろう。
今まで何度も未来を変えようと試みて来た。
例えば、友達が転んで怪我をする夢。
その友達に、夢の場所は危ないから行っちゃ駄目だと話そうとすると、何故か決まって邪魔が入る。
別の友達が話し掛けて来て、別の話題で盛り上がってしまって話が反らされてしまうだとか、僕自身が先生に急に仕事を頼まれて引っ張られて行ってしまうとか。
だから、ここで夢の内容をはっきりと星河に伝える事はどうやっても叶わないだろう。
伝えられるのは、驚くという事を阻害しない範囲まで。
「ん~なるほど。まあ察しはつくから詳しくは聴かないわ。ここで邪魔が入って、この相談自体が中断されたら目も当てられないしね」
かく言う星河は、僕のその予知夢に関する事情を知り尽くしているので、きちんと僕の意図するところを汲んでくれたようだ。
「つまるところ、星河は昨日の彼女のお見舞いに行く事になるって事だね。決定してるのは」
「そして、それは一輝の未来にも関係してる…と。そういう事だよね」
予知夢が僕に必ず関係あるって事を考えれば自然とそうなる。
僕が星河の言葉に頷き返すと、
「んじゃ、今日の放課後、一緒にお見舞いに行けばいいんじゃないの?」
あっけらかんと星河はそう言ってのけた。
「え、いや、え? それで、良いのか?」
戸惑う僕を他所に、星河はさも当然といった様子で、
「そもそも、青木君が登校してないから自宅に行こうって話だったじゃない。何でそこで迷うのよ」
そう言われればそうだ。星河を事件に関わらせない事ばかり考えていて、青木時雨から事情を聴くという最優先事項を忘れてしまっていた。
「そうだったよ。何て言うか、我ながら間抜けと言うか…。よし、そうだな。二人で放課後またあの場所に行く。そして、青木時雨から…何が起こっているのかを聞き出す」
その上で、星河がこれ以上関わらないような方法を考える。
口には出さずに、心の中でそう付け加えた。