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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
一章 予知夢
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屋上にて

 屋上にはもう既に何人かの生徒たちが来ていて、思い思いの場所で昼食を食べたり、話をしたりしているのが目に入る。

 この屋上、花壇があったり植木鉢やらが置かれていたりするのに加えて、ベンチも多く設置されて綺麗に整えられている。

 そうして落ち着ける環境になっているため、今日みたいな天気の良い日は、休み時間や放課後など、多くの生徒が出入りしている。

 とは言うものの、それでも人があまり来ない場所もある。入り口脇の、日陰になっているそれ程広くないスペースだ。

 案の定、そこには誰の姿も見られず、僕達はそこの床に隠れるようにして、並んで腰を下ろす。

「で、また何か夢見たんでしょ?」

 腰を下ろすと、すぐに星河はそう切り出した。

「あー分かっちゃった?」

 そう答えると、星河は少し怒った様な表情をし、

「あったりまえじゃない! 学校で一輝の方から話がある、なんて言って来るのは予知夢の話の時位なもんでしょ!」

 と、強い口調で責めてくる。

 すぐ隣に居る彼女の名前は日高星河ひだかせいか

 長い髪を後頭部高くで束ねていて、いわゆるポニーテールといわれる髪型。左目の下にある泣きボクロが特徴的だ。

 有り体に言えば幼馴染であり、僕の秘密を知る唯一の人物。

 僕の家は酒屋で星河の家はパン屋という同じ商店街仲間という繋がりで、同い年ということもあって幼稚園に入る前からの家族ぐるみの付き合いである。

 そして、僕の秘密というのは、彼女の言った通り「予知夢」のことである。

「それなら話が早いんだけど、今朝も見たんだよね。それがさ――」

 そう言って、僕は夢の内容を話し出す。



 いつから予知夢を見るようになったのかは、はっきりとは分からない。

 初めは奇妙な既視感だった。幼い頃、目の前で起った出来事が、何故か何処かで見たことがあるような感じがしたのだ。

 それが夢の中で見たことだと気が付いたのは、何回かそれを繰り返した後――確か、小学校低学年の頃。

 それに気が付いた時、自分が直接目にしない事でも、夢で見たことで現実に起こっていた事もあったのだと気が付いた。

 夢の内容は、直接的にしろ間接的にしろ、僕自身に関係する事であった。

 例えば、雨が降って遠足が中止になる夢。

 例えば、渋滞に叔父さんの車が捕まっている夢。

 前者はそのまま自分に関係するのはすぐに分かったが、後者は午前に着くはずだった叔父さんが夕方になって到着した所で、それが予知夢だったのだと分かった。

 初めは調子に乗って友達に言って回ったさ。自分は未来を知ることが出来るんだ、ってね。

 けれども、見たいと思って見ることが出来るのではない。

 証明しろ、と言われてもその日すぐに出来るものではなかった。~~を当ててみろ、と指定されてもそれを当てることは出来ず、結局は嘘吐き呼ばわり。

 それが原因でいじめられたこともあった。

 ただ、星河だけは僕の言うことを信じてくれた。

 僕の望んだ未来が見れるのではなく、いつ見れるのかも分からないということを。

 そんなことがあって、僕は予知夢のことを周りに言わなくなった。

 変に騒ぎ立てられても大変だし、納得してもらうのにも無駄に労力を使う。だから、今では僕の予知夢のことを知っているのは唯一人、星河だけである。



「ふ~ん。なるほどねぇ…。屋敷の中の怪しい会話、か」

 僕の話を聞き終えた星河はそう呟く。

「そ。屋敷に見覚えはないし、二人の声に聞き覚えもない。それが一体、どうやって俺の未来に関係するのやら」

 このように予知夢が意味不明な時、僕は唯一の理解者である星河へといつも相談を持ちかけていた。

「本当に予知夢なんでしょうね?」

 まったく身に覚えがないのなら、ただの夢なのではないか、と言いたいのだろう。

 けれども、僕は確信していた。予知夢には、普通の夢とは違う特徴があるからだ。

 まず第一に、予知夢を見ている間はどんなに起こされても起きないということだ。

 そして第二に、目覚めた後、やけに頭がはっきりとしていること。

 ついでに、起きた時に妙にお腹が空いているということもある。

 慌てていてすぐには気が付かなかったが、今朝のことを考えると、それらの条件をどれも満たしていた。

「間違いないと思うよ。あの条件は満たしていたし」

 もちろん星河にもその特徴は話してある。

「んーじゃあ、近々その二人に出会うんじゃない? まぁ出会うってだけじゃあ、その場面を見た理由にはならないけど…」

 星河の言う通り、これから出会うということは確かに有り得る。

 では、何故あの場面だったのか…。

「そういえばさ、その場面って何時頃だったの? 例えば明るかったとか、暗かったとか」

 と考えていると、星河は急に違う話を振ってくる。

「え? 何時頃か? うーん…確か薄暗くて……あ、そういえば庭の場面…遠くの空がうっすら明るかったような…」

 記憶の糸を手繰りながら言葉にする。そうしながら、自分の中の考えをまとめていく。

 ということは、あれは、

「朝方か夕方ってことかな?」

 僕と同じ考えに至ったようで、星河が先にそう口にした。

「うん、そう言えばそんな感じだったかな。でも、それって何か関係あるか? いつの出来事か分かったとしても、俺はその場面に居ない訳だし…」

 そう答えると、星河は、うんうんとなにやら頷く。

「ま、状況を正確に分析すれば何か分かるかもと思ったけど、何も分からないわね」

 って、おい! 分からないじゃ意味ないだろ! と心の中でつっこむが口には出さず、

「あの場面で何かあるとしたらあの箱かな。女の人が男に渡していた」

 と、話を元に戻す。

 星河の何でも分析したがる性分にはもう慣れたもので、だからこそ彼女に相談しているのだ。

 実際、常に成績上位に入っている星河は、僕よりも頭の回転は早い…はず。

「そうね、その箱を男が落としてしまって、一輝が偶然拾うとか。あ、そう言えば誰かから隠れている様な事言ってたんだよね。その隠れ家を見つけちゃうってのはどうよ?」

「どうよって…。そんな竹林の中の屋敷に行く予定もないし、心当たりもないよ」

 と、答えたその言葉に星河は食い付く。

「そうよ! 竹林よ!」

 その大きな声に驚きながらも聞き返す。

「竹林? それがどうしたのさ?」

「この辺りで竹林って言ったら、街外れにあるあそこしかないでしょ! ほら、聖風家せいふうけのお屋敷があるっていう」

 聖風家――この街で知らない者がいないであろう名家である。

 聞いた話によると、この街の北東にある山一つが聖風家の土地であるとか。

 聖風学園という中高一貫の女子高を経営していて、妹の未鈴はそこの中等部に通っている。

 何故そこの学校にしたのかと妹に聞いたら、制服が可愛いから、らしい。

 小山なんとかっていう有名なデザイナーがデザインした制服らしく、この公立高校の制服に比べたら確かに可愛い。

 この辺の女子中高生にとって、いや男子にとっても憧れの制服だ。

 まぁ、妹の着ている中等部の制服よりも高等部の方が僕は――と、こんな話は置いておいて、結構レベルの高い学校で、妹も入試の時はかなり勉強していたっけ。

 そういえば、星河はどうして行かなかったんだ? 星河の学力なら余裕で入れたはずなのに。

 と、話がずれ過ぎた。

 えーっと、そうそう、聖風家の屋敷である。

 星河の言った通り、街外れには結構広い竹林があり、そこはすべて聖風家の土地だと聞いたことがある。

「ってことは、夢の屋敷は聖風家の屋敷だって事? 俺が聖風家と関わるとは思えないけどなぁ~」

「そう言ってても、今までだって関係なさそうなこと一杯あったじゃない」

 すぐさま星河が言い返してくる。

 そう、確かに今までのことを考えればないとは言い切れない。

 とりあえず、今はその聖風家の屋敷のことを覚えておこう。

「ま、気を付けておくよ。結果が出るのは少なくとも今日の夕方以降になるんだし」

 そう言って僕は立ち上がる。この話はこれで終わりってことだ。

 星河も続いて立ち上がる。

「そうね。ま、何かあったらまた話してちょうだいね。話を聞いた以上、私もどうなるのか気になるし」

「分かってる」

 いつもの事だ。断るいわれはない。

 と、星河がにんまりと妖しげな笑みを浮かべる。

「それはそうと~、一輝のために昼食遅くなっちゃったんだよねぇ~」

「わーかってるよ! 昼飯はおごる! それでいいんだろ?」

 僕は頭を掻きながらそう答える。

 すると、星河は僕の腕を引っ張って歩き出す。

「じゃ~早く行こう。善は急げだ。早く行かねば昼休みが終わるではないかー!」

「分かった、分かったから引っ張るなって」

 そうして僕達二人は屋上を後にし、食堂へと向かった。



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