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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
五章 三日月
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野次馬雅人

「おはよーさん、相変らず早いなぁ一輝」

 昨日色々あったおかげで終わっていなかった数学の課題を片付けていると、後ろから声をかけられる。

 ノートから顔を上げると、すぐ横に大きく欠伸をしている雅人の姿があった。

「おーはよっ。何だ? いつにも増して眠そうな顔してるな」

 素直な感想を口にすると、雅人は顔をしかめ、苦笑いを浮かべる。

「あぁ、あんまり寝てないんだよな。昨夜の事件、知ってるよな?」

 昨夜の事件といえば、今この瞬間も目の前にある数学の問題以上に僕を悩ませているあの事件しかないだろう。

「聖風家の爆発事件だろ」

「そうそう。あれのおかげでさー、昨日なかなか家に帰れなくてさ」

「は?」

 どういうことなのかさっぱりだ。

 昨夜、聖風家の屋敷が燃えたことと、雅人の帰宅時間がどう関係しているというのだ?

「いやさ、昨夜はコンビニのバイトがあったんだけどさ、事件が起きたのが丁度上がりの時間間際でさー。うちのコンビニ、聖風家の屋敷の近く、というか竹林の近くなのよ」

「ああ、そういえばそうだったな」

 雅人がバイトしていると聞いていたコンビニを思い浮かべる。

 昨夜、僕達はあまり近くには行かなかったが、竹林の中の砂利道へと入らずに竹林の外に沿っている道をしばらく行ったところにその店はあるのだ。確かに、近くに違いない。

「でさ、結構暇人って多いんだな。野次馬が沢山集まってきたみたいでさーつっても、竹林の外から眺めるだけだけどさ、あの火の勢いは凄かったよ。店から見たら空なんて真っ赤に見えたからなぁ。あれで被害が広がらなかったってのはマジで奇跡だな。実際、いつ火が目の前の竹林まで燃え移って来るかと冷や冷やしてたしな」

 話している内に雅人はその場の空気を思い出し興奮してきたのか、段々とその声に力が入ってきていた。

「まぁ、火が迫ってくるってことは無かったんだけどさ、その野次馬達がついでにコンビニ寄ってくかーみたいな感じでさぁ、いつもなら客がほとんど来なくなる時間だっていうのに大盛況よ。おかげで、帰るに帰れなくなってよー。まぁその結果がこれだ」

 と、雅人はまた大きく欠伸をする。

「ははっ、そりゃあ御愁傷様だな」

 笑いで返すと、雅人は続けて出そうになった欠伸を噛み殺しながら、

「ったくよー、人事だと思って」

 恨めしそうにそう漏らした。

「でもまぁ、そんな近くにいて事件に巻き込まれることは無くて良かったじゃないか」

 雅人の肩へと手を置きなだめつつ、心の中では、「俺達は巻き込まれたんだけどな」と付け足す。

「まぁそう考えるのもアリかもだけどなぁ。でも、実際は何だったんだろうな。出火原因はまだ分かってないみたいだし、場所があの聖風家だからなぁ~。何だか大きな事件の臭いがするよな」

 その雅人の言葉に、これが今の街の一般の人達が考えてる事なんだろうな~などと思いながら、

「野次馬がどうとか言ってたけど、自分も野次馬根性丸出しじゃないか」

 と、指摘してやる。

 すると、雅人は一瞬きょとんとした表情をすると、

「何だ? 一輝自身は興味なさそうな言い方だなぁ?」

 何やら、討ち取ったりー! というような、にんまりとした笑顔を浮かべる。

 だが、雅人…期待に添えなくてすまないな。この件に関しては僕には野次馬としての興味は無い。

 あるのは当事者としての別のもの。ただ暇な時間を埋めるための話の種にしているだけのような、余裕のある話ではないのだ。

「まぁねぇ~、俺は雅人と違って、そんな野次馬根性は無いからねぇ」

 内心とは裏腹に、おちゃらけて誤魔化す。

 その返答に雅人はどうやら不満の様子で、口を尖らせる。

「ほぉ~あくまでそれで突き通す気かぁ。まぁ良いけどさ。じゃ、俺は先生が来るまでちょっと寝とくから、一輝は課題を頑張ってくれ」

 話はこれで終わりだという事で、自分の席へと向かって行く雅人。僕はその背中を見ながら、

「どうするかねぇ」

 と、誰にも届かない声で呟いた。



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