明かされない事実
しばらく沈黙が続いたが、十字路を右に曲がったところで星河が口を開く。
「私達が助けた女性は…行方不明ってなってたよね」
僕が見たネットニュースによると、屋敷の主人である聖風家の当主とその婦人は仕事で家を空けており、事件当時に屋敷にいたのはその娘一人と使用人が三人の計四人。
二人の使用人は火事の屋敷から逃げ出してきた所を無事保護されているが、一人は竹林の中で死体で見つかり、残りの聖風家の娘は行方不明となっていた。
つまり、青木時雨は、自分の姉が無事だということを公にしていないということだ。
その理由は容易に想像出来る。あの化け物達に狙われたのは青木時雨の姉であり、奴らはまだ彼女を襲う可能性があるということ。
わざわざ奴らに、彼女が無事でいることを教えてやる道理はない。
「うん、彼女が行方不明中の聖風家のお嬢様だろうからね」
「こうなるって分かってたから、一輝は冷静で居られたんでしょ? 自分はあの人を助けるために夢を見たみたいな事言ってたけど、事件のこと自体を夢に見たんじゃないの?」
星河の指摘に僕は返答を詰まらせる。
星河が言っているのは、僕が昨夜の事件を事前に予知夢に見たのではないかということ。
確かに、僕は昨夜起きた「事件」を予知夢で見ている。だがそれは、公の記事になっているようなことではなく――そう、その裏で起きていた事件と言えるものだ。
だから、星河が気付きかけてるといっても、誤魔化そうとすれば、まだ何とか出来そうではある。星河には、あんな化け物達と関わって欲しくない。
だが……今朝の予知夢の事を考えると、星河には全て話してしまった方がいいのかもしれない。これから先も、あの女性と星河が関わっていくことは確かなのだから。
そうやって悩んでいると、
「まぁ、一輝が言いたくないんなら無理に聞かないけどさ…一人で抱え込んで悩んでないでよ」
僕はどんな顔で考え込んでいたのだろうか。星河にすっかり内心を見透かされてしまっている。
「あぁ、ごめん……。何て言うかさ――俺自身も、どう説明すれば良いのか良く分からなくてさ」
そう言葉を濁す。
すると、星河はとりあえずは納得してくれたようで、曇っていた表情が笑顔へと変わる。
「まぁいいわ。予知夢って言っても結局は夢なんだもんね。時間が経てば記憶があやふやになるなんて良くあることだし、今はもっと確実な情報源に当たるのが得策よね」
「確実な情報源?」
その言葉に思わず聞き返してしまう。
「そんなの、青木君に決まってるでしょ! 彼に直接、昨夜の出来事はどういう事なのか聞いてみればいいじゃない!」
そう言い返されて、自分で自分の頭を小突いてやりたくなる。
さっきまでは自分でも彼に話を聞こうと考えていたというのに、星河と話している内にすっかり忘れてしまっているとは…何て間の抜けたことだ。
「そりゃそうだよな。ははっ、ボケッとしててすみませんねぇ」
自重気味にそう言い、
「ま、今日彼が学校に来ると良いんだけど」
と付け加えた。
「そうねぇ、あんなことがあった後だし……お姉さんを看病してるんだったら傍を離れられないかもしれないし。けど、いざとなったら直接自宅まで行けば良いのよ。昨日もう既にお邪魔しちゃってるんだし、気を使うのも今更って感じよね。というか、むしろ私達には彼から話を聞く権利があると思うわ! そうでしょ!?」
話している内に、星河は何やら昨夜の青木時雨の対応に対して怒りが湧いてきたのか、最後の方の言葉には明らかに怒気が含まれていた。
「あ、ああ。そうだなぁ。とりあえず今は、学校に彼が来ることを祈って」
そうこうしている内に僕達は学校へと到着し、それぞれの教室へと向かった。




