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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
四章 邂逅
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答え


 真面目な話、僕は星河のことをどう思っているのだろうか。

 幼馴染で、ずっと一緒にいて、僕の秘密も星河だけは疑わずに信じてくれていて……。

 好きか嫌いかと言ったら、もちろん好きには違いないのだけれども、でもその感情が今ここで星河の言っている好きって言う言葉と同じものなのか……。

「あのさ、正直な所どう答えたら良いか分からないんだ」

 僕は決心して、素直に心の内を話し出す。

「星河のことは好きだけど、それがその、異性として好きかどうかというとそんな風に考えたことがなくて……。あ、だからと言って星河のことを女として見て無かったってわけじゃないし、他に好きな女子がいるとか言うわけでもないんだけど。うーん、なんて言って良いのか…」

 上手く言葉が見つからない。なんて言ってこの感情を表現したら良いのだろう。

 でも、これが恋なのかと問われたら、何だか違うような…。

 すると、星河は下を向いて大きく「ハァー」と深いため息をつく。

 そして、再びこちらに向けられた顔には心底おかしいという様な笑顔が浮かんでいた。

「えぇ? 笑うところ?」

 思わずそう口にしてしまう。

「ほんっと、一輝って鈍いんだから! それを好きって言うのよ! 一輝は私のことが好きなの! 間違いないんだから!」

 何処からそんな自信が湧いてくるのか、星河は僕に人差し指を突きつけながらきっぱりと断言した。

「間違いないってそんな、俺の心が読める訳じゃ――」

「一輝の心の中なんて丸分かりよ! 私たち何年一緒にいると思ってるの? 言わなくたって顔を見れば全部分かっちゃうわよ」

 あまりの断定口調に、反発したくなってくる。

「へ、へぇ~そこまで言っちゃうか。じゃあ、今俺が何考えてるか当ててみ?」

「んーそうね。『勝手に心の内を決め付けられると反対したくなる。ってか告白しといて答えを断定するっておかしくないか?』ってところかな」

 むむむ。確かにその通り。

 本当に、思ってること顔から丸分かりなのか?

 というか、

「『だったら、告白する必要ないじゃん?』とか今思ったでしょ?」

 思ったというか、もう既に先回りされてるんですが。

「いや、まぁ、そうだけど」

 歯切れ悪く答えると、星河は再び「ハァー」と息を吐き、わざとらしく腕組みをして首を左右に大きく振る。

「やっぱり分かってないなぁ、一輝クンは。こういう事は言葉にするから意味があるのよ。言葉にして口にすることで、お互いに気持ちを確かめ合うものなのよ。分かりましたか?」

 何だか幼い子を諭すような話し方だ。

 確かに僕は恋愛経験などないから、そういうことには疎いのかもしれないけれども、だからと言って偉そうにしている星河だって、誰かと付き合ったことないだろう。

 などと思っていると、

「何か言いたそうねぇ~一輝?」

 そう言った星河は、口元を吊り上げた妖しげな笑みを浮かべている。

「いや、何も無いです、はい」

 何だかもう星河のペースで、こっちは乱されっぱなしだ。

 けれども、突然の告白で混乱していた頭もそろそろ冷静さを取り戻してくる。

 そうなってやっと今の星河の異常に気が付く。

 普段から星河は元気で明るくて、いつも僕の手を引っ張って先に行くような性格だけれども、今の星河はどこか不自然な感じがする。

 そう、無理やり明るく振舞っているような……。

 見た目や言動に惑わされていたけれども、やっぱりまだ星河は完全に立ち直っている訳じゃないんだ。

 だったら、今僕がどうすれば良いかなんて分かりきっているじゃないか。

 元々、そのつもりでここに来たのだから。

「星河、僕も君のことが好きだよ」

 意外にも、すらすらと言葉が出てきた。

 すると、そんな僕の返答が予想外だったのか、目を真ん丸くし、口をぽかんと開けて星河の動きが止まる。

 けれどもそれは一瞬のことで、すぐに星河は満面の笑みの表情に変わる。

「一輝、約束だよ。これからもずっと傍に居てくれるって」

 不覚にも、その笑顔にドキリとさせられてしまう。

「あ、ああ…約束する」

 僕は大きく頷き、答える。

「約束…私の命が尽きる…その時まで……絶対だからね」

「うん、絶対…絶対に星河を一人にしないよ」

 すると、星河は右手を伸ばして来る。

 僕はそれに左手で答える。

 ぎゅっと強く握り締められた手は、星河のすぐ横まで引き寄せられる。

 星河の手は、僕の物よりずっと冷たかった。けれども、その暖かさは感じられた。そう、星河自身の温もりが。

 繋いだ手から星河の顔へと視線を戻すと、既に星河は僕を見ていなかった。星河は顔を上げ、ただまっすぐに夜空を見上げていた。

 そして、

「しばらくこのままで居させて」

 という、小さな声だけが僕の耳に届いた。



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