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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
四章 邂逅
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告白


「『星河のお母さんの名前、ツクヨって漢字でどう書くか知ってる?』って、一輝が突然言い出してさ。私はまだ小さかったから、お母さんの名前の漢字なんて考えたこともなかった。でも、何でか一輝の方が知ってたんだよね。実の娘が知らなかったのにさ」

「あはは…それはたぶん、うちの父さんが良く話してたからじゃないかなぁ?」

 漢字のことを話していたかどうかは覚えてないけれど、星河がそう記憶しているのならそれは確かだろう。

 だって父さんは、昔から幼馴染の月夜さんのことを時々僕に対して話していたのだ。幼い僕が覚えていても不思議じゃない。

 そう思うと同時に、ふとある考えが頭を過る。

 もしかして父さんは、星河に真実を伝える時に備えて月夜さんのことを僕に色々話していたんじゃないか、と。

「そういえば、お母さんとおじさんも幼馴染だったんだよね……」

 星河は相変わらず夜空を見上げたまま、言葉を続ける。

「一輝は指で地面に漢字を書いてさ、『月の夜って書いてツクヨって読むんだぞ』って。私は本当に初めて知ったから普通に驚いてその文字を見てたんだけど、一輝は『それで、セイカは星の河って書いて星河だろ? ほら、空を見上げてみろよ。星河はいつも月夜と一緒だろ!』なんて言うのよ」

 思いもかけない言葉に、僕は一瞬固まってしまう。

 そして次の瞬間、顔がカーッと熱くなってくるのを感じる。

「えぇ……俺そんなこと言ったんだ。何と言うか……恥ずかしい台詞…だな」

 黙っているのも何だかこそばゆくて感じそう口にすると、星河は「あははっ」と楽しそうに笑い、

「確かに冷静になって考えると恥ずかしい台詞かもね~。それも小学校入ったばかりの頃の子供の言う言葉とは思えないし」

 と、こちらに向けられた星河の笑顔は、さっきの悲しそうな笑顔とは違う、いつもの元気な星河の笑顔だった。

 けれども、急に星河は真面目な表情になる。

「でもね、私にとってはすごい意味のある言葉だったの。それ以来、お母さんがいないことで泣く事はなくなったし、何か嫌なことがあって落ち込んでても夜空を見上げれば、すぐに立ち直ることが出来た。今もね、お父さんから話を聞いて、どうしたら良いのか分からなくなったから、ここに来て夜空を見上げてお母さんと話してたの。でも……分かっちゃった」

 真っ直ぐに見つめてくる星河の眼差しには、何か決意の様なものが潜んでいる。僕にはそう感じられた。

 だから、

「分かっちゃったって?」

 と聞き返す内心、どんな言葉が続くのかと僕は少し緊張していた。

「私はね、夜空でいつもお母さんと一緒だって言う言葉の内容に救われていたんじゃないんだって。それが、一輝の言葉だから意味があったんだって」

「…………え?」

 完全に予想外だった言葉に、僕は思わず間抜けな声を上げてしまう。

「だーかーらー!」

 そんな僕の反応が気に入らなかったのか、星河の顔が真っ赤になると同時に発せられた言葉は怒気を含んだものだった。

 そして、続く言葉に僕はそれ以上に困惑することとなる。

「私にとって! 一番大切なのは一輝だって言ってるの! 好きだって言ってるのよ! それ位察しなさいよ!」

「えぇ!?」

 それってつまり、あのその、つまるところの、えーと、いや、まさか――

 先程とは比べ物にならない程の熱を顔に感じる。おそらく、僕の顔は真っ赤になっていることだろう。

 いや、でも今はそんなことよりも、

「それって、つまり……告白?」

 恐る恐る訪ねると、ぎろりっとにらみ返される。

「いやっははは、そうだよねぇ。聞き返すものじゃないよねぇーあはははは」

 別におかしいわけでもないのに、笑いが自然と漏れてくる。

 というか、人間どうしようもない時は笑うしかないというのは本当のことだったのか。

 というか、なんで怒られているんだ?

 というか、そんなこと考えてる場合じゃなくて今はどう答えるべきか考えなくては。

 というか、今は星河を探しに来たはずで、そんなことしてる場合なのか?

 というか、別に悪くはないんだけれども。

 というか――

「この状況で愛の告白になるとは思わなかったんだけど」

「愛のーとか言うなー!」

 今まで以上に真っ赤な顔で言い返す星河。

 それで気が付く。星河が急に怒り出したのは、照れ隠しなんだな、と。同時に冷静さが少し戻ってくる。



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