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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
四章 邂逅
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思い出の公園


 星河の行きそうな所は予想がついていた。絶対、とは言えないけれども、おそらくあの場所で間違いないだろう。

 どういう経緯でそうなったのかは詳しくは知らない。けれども、何か嫌なことがあったり、落ち込んだりした時、昔から星河はある公園に決まって一人で居るのだった。

 家からは離れた公園……そこで初めて星河を見つけたのは、確か小学校に入ってまもなくの頃だったか。

 僕と星河は別々のクラスだったが、どうやら星河はクラスで上手く友達を作れずにいたようだった。

 それでその公園に星河が一人で居た所、僕が偶然通りかかった。

 まぁ、その時にどうやって星河を慰めたのかとか、自分が何をしたのかとかほとんど……というか、全く覚えていないのだけども、それ以来、星河に何かあった時はその公園に行くと、決まってそこに居るのだった。

 だから、今日もきっとそこに――


 夜の街を自転車で駆け抜ける。

 毎日歩いている学校への通学路を通り、学校前を走り抜ける。目的の公園は、そこから商店街へと向かうのと同じ位の距離を北に行ったところだ。

 小さな公園で、児童向けの滑り台やブランコなどの遊具が数個設置されているだけである。

 周りは住宅地となっているため、夜のこの時間ともなると、人通りはほとんどない。実際、学校を過ぎてからそこに着くまで、僕は誰も目にすることはなかった。

 しかし、

「星河――」

 公園には一つの人影があった。

 僕は公園の入り口に自転車を止めると、ゆっくりとその人影へと向かって歩いて行く。

 二つ並んであるブランコの一方、そこにその人影はあった。

 街灯にぼんやりと照らし出されるその姿は、近明高校の女子の制服を着ていて、長い髪を後ろで一つに結んでいる少女。

 星河に間違いない。

 その星河は、気が付いているのかいないのか、僕の方へとは視線を向けず、ただ地面へと視線を落として、座っているブランコをわずかに揺らしている。

「星河、やっぱりここに居たんだ」

 すぐ横へとたどり着いた僕は、ブランコの支柱へと寄りかかりながらそう話しかけた。

 十秒程の沈黙。そして、蚊の鳴くような小さな呟きが聞こえてきた。

「そっか、一輝も聞いたんだ」

「うん。星河のお母さん――月夜さんの……こと。それに星河の……ことも」

 具体的な言葉を口にすることが出来ず、ぎこちない喋りになってしまう。

 すると、星河は地面へと向けていた視線をゆっくりと上げていき、今度は夜空へと向ける。

 僕も釣られて夜空を見上げる。

 空には雲が架かっていて快晴とは言えないが、雲間からは星々の瞬きがのぞいている。

「月は見えない、かぁ」

 さっきよりもはっきりとした声でそう聞こえてきた。

 視線を星河へと戻すと、そこでここに来て初めて星河は僕へと視線を向けていた。

 その表情に思わずドキッとしてしまう。

 憂いを含んだ悲しげな微笑、と言えばいいのだろうか。それがやけに艶っぽく見えてしまったのだ。

 今までずっと星河と過ごしてきたけれども、こんな風に感じたのは初めてだ。

「覚えてる一輝? あの時のこと」

「へ!? え、あ、あの時?」

 そんな時に急に話しかけられ、変な声を出してしまった。

 どぎまぎしながら質問で返すと、

「ふふ、初めてここで一輝と会った時のことよ」

 と言いながら、再び夜空へと星河は視線を戻す。

「あ、あーあーその時ね。そう、確か、小学校に入ってすぐ位の時だったよね」

 視線が外れいくらか落ち着いたが、まだ少し鼓動の高鳴りを感じる。

「あの時、私は友達とこの公園で遊んだ後で、一輝も友達の家で遊んだ帰りで、偶然この公園の前を通ったんだったよね」

「へ? あ、うん。そーだったよね」

 自分の記憶は曖昧で、はっきりと思い出せないのだけれども、言われてみればそうだったような気がしてきて頷き返してしまう。

「あの時、私は友達を迎えに来たそのお母さんを見て、自分の本当のお母さんのことを思い出して…。それで悲しくなって泣いていたんだ」

 あれ、なんだか自分の記憶と違うぞ?

 僕の記憶ではクラスの友達と上手く行ってなくて、というように記憶しているような…。

「あの時、一輝が言ってくれた言葉、私今でもちゃんと覚えてる。ううん、忘れたことなんてないよ」

 へ、へぇーそうなんだ。でも僕はさっぱり…なんて言う雰囲気でもないので、黙って星河の話を聞き続ける。


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