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決意


 最後に、来夢が一歩前に出た。

「かずくん! 私、待ってるから。ずっと……帰って来るの待ってるから。その時には、私の目は見える様になっているはずだから……ちゃんとかずくんの顔を見せてね!」

 僕は大きく頷く。

「ああ、もちろん」

 まだ定まっていない、あやふやな未来の夢の中で見た来夢の瞳。あれを現実でも見られる様に。

「ったく、実の弟への言葉は無しかよ?」

 時雨が呆れた様にそう口にすると、

「ええ」

 それだけ言って、優雅な笑みを浮かべる来夢。

 双子というだけあって、やはり言葉が無くても伝わる物があるのだろうか。

「来夢さん、あの、私――」

 と、星河が話し掛けるのを、来夢はすぐに遮って話し出す。

「星河さん! 目の治療ありがとう! でも、まだまだ話さなきゃならない事が沢山あるんだから、ちゃんと一緒に帰って来て下さいね!」

 この一週間の間に、星河は来夢の目の治療を続けていたらしいので、その間に色々と話をしていたのだろう。

 同い年の同性同士、それだけ一緒に居れば仲良くなるのは当然だ。

「うん! ちゃんと帰って来て、今度こそぎゃふんと言わせてあげるから!」

 あ、あれ? 仲が良い……んだよな?

「んじゃま、名残は尽きないけれども、いつまでもこうやってるのも疲れるからな。ぱぱっと頼むぜ」

 時雨が器用に手先だけ曲げて、自分の抱きかかえるリュックを指さしながらそう星河を促す。

「あ、ご、ごめん。重いよね。うん、それじゃあ――行くよ!!」

 慌ててそう言うと、星河は空気を抱える様にして両手を大きく広げる。同時に、その前の空中に、直径十メートル程の緑色に光る線で描かれた複雑な紋章が広がっていく。

「三人共、この紋章の中を通り抜けて!」

 続けて、少し力の入った声でそう指示する星河。

「それじゃあ、いってきます!」

「いってくるぜ!」

「世話になったな」

 別れの言葉を残し、星河の言葉通りに緑の紋章を通り抜けると、何か薄い膜を通り抜けるかの様な感触がある。この感覚は、起点を守る結界を通り抜けた時の感覚に良く似ていた。

 けれども、振り返り後ろへと手を伸ばすと、

「いてっ!」

 鋭い痛みを感じて、思わず腕を引っ込める。

 目には見えないけれども、そこには確実に何かがあった。

 もう既に、その先に居るはずの来夢達の姿は見えず、見えるのは真っ白な霧がかかった様な空間と、そこに浮かぶ緑色の紋章のみ。

 すると、僕、時雨、ザルードの三人が通り抜けたのを確認した星河が同じ様に紋章を通り抜け、こちら側へとやって来る。

「もう、一輝! 気を付けてよね。ここには強力な結界が張られてるんだから、油断してると酷い目に合うよ!」

「あ、ああ。ごめん」

 その星河の剣幕に、思わず謝ってしまう。

「ははっ、早速だな。って事で、早く行こうぜ。こっから先は、ザルード、任せて良いんだよな?」

 時雨が、僕らの様子を見て笑いながらそう言った。

「ああ。ここからの事は任せてくれ」

 ザルードの言葉に振り返る。

 その先には、今まで見ていた方向と同じ様な真っ白な霞がかった空間が広がっているのみだ。

 背後に残っている緑色の紋章が見えなくなったら、自分達の向いている方向すら分からなくなる様な不思議な空間。

「これで、本当に向かう方向が分かるのか?」

 自然と出て来たその問いに、ザルードが大きく頷く。

「この空間は、君達の世界とシュトゥルーとだけを繋ぐトンネルの様な物だ。今来た方向を背に進んで行けば、必ずシュトゥルーに到着する」

「そうなのか…」

 僕は、目の前の真っ白な空間を見つめながらそう呟く。

 そして、この先に待っているシュトゥルーという世界へと思いを馳せる。

 アンビシュンに支配された、僕らの御先祖様の故郷。

 アルドという僕らの世界では使われない力によって発展した世界。

 けれども、黒いアルドによって多くの地域が荒廃してしまった世界。

 その黒いアルドの汚染から世界を救うために、僕らはシュトゥルーへと向かっている。

 あの黒い泥人形との戦いを思い出すと、そう簡単には行かないだろうという事だけは分かる。

 加えて、今はザルードが協力をしてくれているが、アンビシュンの本国がどんな対応をしてくるかは全く分からない。

 不安ばかり、見えない未来ばかりだ。

 けれども、僕らはシュトゥルーへと向かう道を選んだ。

 それは、僕らならそれをやり遂げられると信じているからだ。

 この目の前に広がる真っ白な霞がかった世界の様に、僕らの行く先ははっきりとしていない。

 けれども、僕らならやれるはずだ。

 クラウドルインズと、クレセントムーンと、イーストステアーズ。

 至宝と言われる三つの力を持った僕と星河と時雨。

 僕達が力を合わせれば、きっとシュトゥルーに平和を取り戻し、自由に元の世界と行き来出来る――そんな未来をつかみ取る事が出来るに違いない。


 そんな事を胸に、僕は三人と共に一歩を踏み出した。





                    Cloud Ruins end.



ここまで読んで下さってありがとうございました。

 一応、ここで一区切りです。

 続きはその内書きたいと思っているので、その時はまた読んで頂けると幸いです。

 しばらくは、またちょっと別の話を書こうかと思っているので間は開く事になろと思いますが。


 それではまた。

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