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旅立ちの時


 僕達は、一週間前と同じ公園に集まっていた。

 シュトゥルーへと向かう僕、星河、時雨に加えてザルード。

 その見送りには、父さん、修司さん、紫雲さん、美来さん、来夢が揃っている。

 その合計九人が、人目を忍んで、夜の公園に集まっている。

 ちなみに、ここに来て居ない母さんや未鈴には家を出る時に別れを済ませて来ている。

 母さんは事情を知っているが、何も知らない未鈴に対しては、僕や星河は海外に留学するという事になっている。

 おそらく、星河の家も同じで、宙には留学するという風に伝えているのだろう。もっとも、宙が留学という事をちゃんと理解出来るのかどうかは怪しいが。


 僕達三人の足元には、大きなリュックサックが用意されている。これらは、時雨が用意してくれたものだ。

 通学で使う様な良く見かける物ではなく、登山用の、否、軍用と言った方が良い程の頑丈な革製のリュックで、その中身ははちきれんばかりに詰まっている。

「用意して貰っといて何だが、これって一体何が詰まってるんだ? いくらなんでも重過ぎないか?」

 手持無沙汰だったので、僕はそう時雨へと話し掛けた。

「これでも中身は少なくしたんだぜ? 何てったって、向こうで何があるか分からないからな。着替えはもちろん、寝袋に食器だろ。あとは非常食に簡易ライト等々。ちなみに、俺の荷物にはテントも入ってるぜ」

 通りで、時雨の荷物だけ一回り大きい訳だ。

 それにしても、

「荷物はこんだけしっかりしてるってのに、服装はそれで良いのか?」

 僕や星河はそれこそ、山登りする時の様な動きやすくてしっかりとした服装だ。

 それなのに、時雨はというと、良く見慣れた格好――否、この格好しか見た事がない。つまり、近明高校の制服姿だ。

「ん? 何か問題があるのか? やっぱ、慣れた格好ってのが一番だと思うぜ。なあ、ザルード?」

 何故問われているのか全く理解出来ないといった感じで、すぐ横に居る鎧姿のザルードへとそう同意を求める時雨。

 確かに、ザルードの格好と言えばそれか病院の入院服しか知らないが…。

「アルドの伝導率を極限まで高めてあり、かつ軽い材質。対紋章術処理も施されているその服装が、一番の戦闘服だというのは確かに納得出来るな」

 その制服そんな特殊なものだったのかよ! 普通の制服と全然見分け付かないからそんな事全く分かんねーよ!

 という、心の叫びはぐっと堪えて答える。

「そ、そうなのか。なら良いんだけどな」

 と、僕らの横でしっかりとゲート解放の準備をしていた星河が口を開く。

「うん、こっちは大丈夫。準備オッケーだよ」

 最初は、結界を張り直したばかりでどうやってシュトゥルーに向かうのか疑問だったのだが、クレセントムーンの力があれば結界を抜けるのは簡単らしい。

 元々、結界はクレセントムーンの力によって張られたものなのだから、それを無効化する事が出来るというのはすぐに納得出来る。

 心配したのは、そうやってゲートへと入ろうとした時に、一週間前と同じ様に黒いアルドの化け物がこちら側へと侵入してこないかという事だ。

 これに対して星河は、結界解かずに一時的にこちら側からシュトゥルーに向けての通行を可能にするという処置をするとの事で、どうやるのかという事は良く分からないが、向こう側から黒いアルドを含め何かが入って来るという事は起きないそうだ。

 そして、その結界を通り抜けるための処置が今終わったと星河は報告してくれた訳だが――

「こっちも準備オッケーだぜ。けど、ザルードは、本当に何も持たなくて良いのか?」

 自分の荷物を背負いながら、時雨は横の鎧姿の男へと問い掛ける。

 僕達三人用のリュックは用意してあるが、確かにザルード用の鞄は無い。元からのザルード自身の荷物も何も無い。

 もしかしたら、身に付ける鎧の下に何か荷物を持っているのかもしれないが、それではほとんど荷物を持てないだろう。手ぶらなのと変わりは無い。

「心配はいらんさ。向こうに帰れれば、どうとでもなる」

 彼としては家に帰る様なものだ。特に荷物は要らないのだろう。僕達の持つ、三つの至宝という手土産さえあれば。

「なら良いんだけどよ。一輝はどうだ?」

「もちろん、俺もオッケーだよ。って、やっぱり結構重いなこれ」

 僕はリュックを背負いながらそう答える。

「まだまだ一輝は鍛え方が足りない様だな。っと、星河さんの分は俺が持っとくぜ。結界を抜けるまでは、荷物を背負ってる余裕は無いだろうしな」

 と、背中に背負う荷物に加え、前方にも抱きかかえる様にして荷物を持ち上げる時雨。

 流石に、僕ではこれをもう一つ持って動ける自信は無いが、時雨は全く表情を変えずに軽々と持ち上げる。

「あ、ありがとう、時雨君」

 その星河の言葉が合図だったかのように、見送りに来ている皆が口を開いた。

「んじゃ、気を付けて行って来いよ。まぁ、お前達なら大丈夫だって分かってるけどな」

 と、断言する様な事を言う僕の父さん。未来予知で何か見ているからこその言葉だろうか。

「星河! 母さんと宙とで、帰りを待ってるからな。早く帰って来いよ!」

 続けて、修司さんが星河へと向けて大声で話し掛ける。

「時雨、お前は少し調子に乗り易いのが難点だからな。忘れるなよ」

 と、紫雲さんから時雨への忠告。

「時雨、一輝君、星河さん、ザルードさん……気を付けてね」

 一人一人の顔を見てから、やさしくそう口にする美来さん。


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