一週間
あの結界を護る攻防戦から、一週間が経過した。
あの日、黒いアルドの泥人形を完全に浄化した後意識を失った僕は、次の日、太陽がすっかり西に傾き、空が茜色に染まった後に目を覚ました。
どうやら、慣れない事に加えて大量のアルドを使用した事で、僕の体力はすっからかんになってしまって、長時間の睡眠を必要としたらしい。
幸い、それだけで体力、アルド共に回復出来たようで、その後寝込む様な事は無かった。
僕以外の面々はそこまでの消耗はしていなかったようで、その日の内に、作戦に参加した八人は例の如く聖風家の地下作戦室に集まり、今後の活動について話し合った。
その会議は揉めに揉めた訳で、その内容については話すと長くなるので割愛し、結論だけ言うと、僕と星河と時雨の三人がシュトゥルーへと行く事になった。
シュトゥルーに向かう理由は、元々僕達の世代に三つの至宝を引き継いだ時点でアンビシュンに対しての反攻作戦を開始すると、こちらに来た世代の頃から計画されていたからという事が、まず一つ。
もう一つに、あの黒いアルドの泥人形を相手にして、クラウドルインズの力が無ければシュトゥルー全てが危機的状況に陥ってしまうと実感出来た事がある。
僕等のご先祖様達が、至宝を持ち出してしまった事でその危機の一端を担ってしまったのなら、至宝を持ち帰るというのは当然だ。
そして、シュトゥルーに行くのは出来るだけ早い方が良いという事にもなった。
ザルードがこちらに向かった時点で、シュトゥルーの状況はかなり悪かったに違いない。だから、時間をかけて、行ってみたら時既に遅しという状況になるのだけは避けたいのだ。
とは言うものの、焦って行ってみたら力不足でしたでは元も子もない。そのため、僕と星河は五日間、クラウドルインズとクレセントムーンの力をより使いこなせるように修行をする事となった。
勿論、五日間で全ての力を使いこなせるようになるという事は無い。
けれども、基本的な事をみっちりと学んだので、今後自分で能力を使いながらその応用を身に付けていく基礎にはなったと思う。それは、星河も同じだろう。
その間の時雨は、予知夢で見たように、ザルードの協力を取り付けたり、シュトゥルーに行くのに必要な物を用意したりしていたらしい。
因みに、異世界にというか異国に行くのに不安に思うのが言語の問題なのだが、それは心配が無いらしい。何故なら、至宝の力でシュトゥルーの言葉を翻訳する事が出来るからだ。
そんな便利な能力があるのは都合が良過ぎるが、これはご先祖様達がこちらの世界に来た後に編み出した能力だという事だ。だから、少し翻訳される言葉が古い…らしい。
ついでに、ザルードも同じように力を使って会話していたらしい。ザルードはザルードで、こちらに来て一ヶ月足らずでこの翻訳能力を編み出して使っていたという事なのだから…実はそんなに難しい能力では無いのだろうか?
とりあえず、原理は良く分からなくても使えるらしいので、深くは考えないでおく。
加えて、僕と星河は修業の一環として、シュトゥルーの地理や祖国であるレイツアの歴史などの基本的な知識を勉強した。と言っても、ご先祖様達が移ってくるまでの知識なので、現在までの部分はザルードから教えてもらわなければならない。
ザルードは、昨日までは病院で安静にしていたとの事だ。それだけ、黒いアルド汚染から回復するというのは時間を要する事なのだ。
だから、ザルードから知識を得るのは、シュトゥルーに行って分からない事があったら、という事になる。
最後の一日は休息日という事で、昨日は一日ゆっくりと過ごした。
星河と共に買い物に出掛けたのだが、平日の昼間に街をうろうろするというのは何とも変な気分だった。
学校は爆発事件による臨時休校から既に再開しているが、僕らは一週間前に休学届けを出している。
退学ではなく休学だというのは、シュトゥルーに行っても必ず帰ってくるという事の表れだ。
何せ、黒いアルドの問題を解決し、アンビシュンと和解する事が出来れば、結界など張らずに自由に二つの世界を行き来出来るようになるのだから。
僕らは決して、生まれ育ったこの世界を捨ててシュトゥルーに行くのでは無い。
シュトゥルーの問題を解決し、この世界に帰ってくるために行くのだ。